中谷育
ねえねえ、髪、切った?
周防桃子
…………。
中谷育
じ~…
周防桃子
…………。
中谷育
えっと…マイクも話さないとやり辛いよ…。
周防桃子
…………。
中谷育
えっと…えっと…。
中谷育
…その場にはわたしの困惑している声だけが程よく響いている。
中谷育
…その音を拾うように、マイク役に徹する桃子ちゃん。
中谷育
…わたしの発言に対し、何も言い返すこともなく。ただただ黙々とその声を拾う。
中谷育
…そのせいか、わたしの声は、いつもに増して部屋の隅々までエコーしているようだった。
中谷育
えっと…もう…いいよ。
周防桃子
…………。
中谷育
…半ば諦めモードでわたしはそう切り出すけれど…やはり反応はない。
中谷育
…きっと、いまでさえも桃子マイクはわたしの零した溜め息を拾っているのかな。
中谷育
…さすがにもう、おふざけはおしまいだよ。
中谷育
…その合図を送ろうと思った。
中谷育
マイク…オフ。
周防桃子
スタスタスタ…………。
中谷育
…私の合図を受け取った桃子ちゃん、だけど、そこには一つの言葉もなく。
中谷育
え…あっ…待って…。
中谷育
…桃子ちゃんはなにも言わずに、まるで本当に役目を終えた小道具のマイクみたいに…
中谷育
行っちゃった…。
中谷育
…その日から、わたしたちが言葉を交わすことはなくなった。
中谷育
…いつ、どこで、わたしが桃子ちゃんに会っても、彼女はわたしと話してくれない。
中谷育
…本当のマイクのように、ただ、ただ、わたしの声を拾っているだけ。
中谷育
…そんなこと、もういいよ!
中谷育
…もう、あの遊びは終わったんだよ?
中谷育
…それにわたし、桃子ちゃんの女優魂、身に染みるほどわかったよ。
中谷育
…もう、意地を張るのはやめてよ!
中谷育
…もう、意地悪をしないでよ!!
中谷育
…お願い、わたしと話をしてっ!!!
中谷育
…何度も、そう思っては、言葉にしようとして。
中谷育
…わたしは言葉を詰まらせる。
中谷育
…だってね、わたし、おとなだからね、わかるよ。
中谷育
…気付いちゃったんだ。
中谷育
…すべてはわたしが悪いって。
中谷育
…この状態はわたしが生み出しちゃったって。
中谷育
…あの日始めた、わたしとあなたのおままごと。
中谷育
…でもそれは、わたしの我が儘ではじまったこと。
中谷育
…それが意味するのは、もう簡単には元通りにならない。
中谷育
…そんな御儘事だってこと。
中谷育
…こんな単純なことにすら、わたしは最初から気付けなかったんだね。
中谷育
わたしの大バカやろう。
中谷育
でもね…
中谷育
でもね、わたし…
中谷育
桃子ちゃんとお話ししたいよ。
中谷育
もっと、もっと…
中谷育
だって、わたしたち…
中谷育
友達なんだもんっ!
(台詞数: 50)