サジタリウス・パートナーシップ
BGM
カワラナイモノ
脚本家
nmcA
投稿日時
2016-12-04 01:50:37

脚本家コメント
きっと2人で立つ日がくる。
突発的な続き物にお付き合いいただきありがとうございました。
桃子がさそり座で、育がいて座っていうのは意図的なんでしょうかね。
拙作マイリスト「自作ノンシリーズ」よりどうぞ
①「アンタレス・アクトレス」
②「オリオンのようなまなざしで」
③「蒼いシリウス目印にして」
④「ソルの輝き、ルナの煌き」
⑤「サジタリウス・パートナーシップ」(終)

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中谷育
「送ってくれてありがとう。うん、あとは自分で帰れるから!」
中谷育
「大丈夫だよ!7時までには帰るってお母さんとやくそくしているもん!」
中谷育
「……しょうがないなぁ。ちゃんと家に着いたら連絡するから、ね?」
中谷育
ちらちらとこちらを見ながらしぶしぶ車を出すプロデューサーさんにわたしは大きく手を振った。
中谷育
「さ、がんばろ!」
中谷育
赤いランドセルを背負ったまま図書館へと走り出す。イチョウの葉っぱはすっかり落ち切っている。
中谷育
くつを並べて、階段を上る。カーペットが敷かれた部屋へ入ると本の匂いが出迎えてくれた。
中谷育
『育ちゃん、今日も勉強かい?』
中谷育
図書館のおばさんとは最近仲よしだ。小声で元気よく「うん!」と返事をして奥の本棚へと向かう。
中谷育
「て……て……て……ないなぁ」
中谷育
トンボさんのように目をこらし、フクロウさんのように首をかしげる。この棚にはないみたいだ。
中谷育
「おばさん、踏み台借りてきまーす!」
中谷育
上級生の棚は一番上の段。どんなにキリンさんのように首を伸ばしても見えっこない。
中谷育
一段、二段と登っていくと見える景色が変わってくる。本当に大人になったみたいだ。
中谷育
「て……て……て…あった!」
中谷育
思わず出てしまった大きな声にびっくりして身を縮める。
中谷育
周りに誰もいないのに、小声で「ごめんなさい」と言うと、両手で本を抱えて机へ向かった。
中谷育
本にたまったほこりをふき取ってページを開くと、小さい字がいっぺんにおそってきた。
中谷育
「……どのページだろう?難しい漢字ばっかり……。辞典を持ってこないと……」
中谷育
紗代子さんが教えてくれたこの本は、きっとわたしをもっと大人にしてくれるはずだ。
中谷育
でも、大人になるだけじゃダメなんだ。
中谷育
「へぇ、これでさそりって読むんだ!」
中谷育
ページをめくると、紙の上の星空に一匹のさそりが描かれていた。
中谷育
でも、わたしにはさそりの背中に、小さくて大きな背中が見えた気がした。
中谷育
桃子ちゃんの舞台を見たのは、先週のこと。プロデューサーの隣で桃子ちゃんの出番を待っていた。
中谷育
『オリオンよ!その傲慢さを足枷に、この私の毒で死後も苦しみ続けるがいい!』
中谷育
……でも、そこにいたのは、私の知らない桃子ちゃんだった。
中谷育
わたしや環ちゃんに見せる顔でも、春香さんや雪歩さんに見せる顔でもない。
中谷育
ただ、まっすぐ、そう、例えるなら舞台上の桃子ちゃんが持つ鈍く光る短剣のような……
中谷育
「これが、プライドなんだ……」
中谷育
机の上の本に目を戻す。アンタレスという大きな星がさそりの真ん中に置かれている。
中谷育
紗代子さんに桃子ちゃんの舞台の話をしたら、おもしろいことを教えてくれた。
中谷育
『さそり座にはオリオン座以外のライバルがいるんだよ』って
中谷育
さそりの絵の左に目を移す。描かれているのは大きな弓を持った馬のおじさんだ。
中谷育
『いて座はね、いつもさそり座の心臓を狙っているって言われているんだ』
中谷育
確かに、いて座の弓矢はさそり座の大きな星を狙っているように見える。でも……
中谷育
『でも、さそり座といて座は向かい合っているんじゃなくて、同じ方向を向いているんだよ?』
中谷育
紗代子さんの言うとおり、さそり座といて座は肩を並べて西の空をにらんでいる。
中谷育
そのいて座の姿はさそり座をねらっているというより、むしろ、一緒に戦っているように見えた。
中谷育
柱時計がポーンと短く音を鳴らした。短い針が6と7の間を指している。
中谷育
あわてて本をランドセルにつめこんで席を立つ。ふと、目の前のカレンダーが目に入った。
中谷育
「もしかして、紗代子さんは、わたしたちの星座も覚えていたのかな」
中谷育
11月6日生まれの桃子ちゃんと、12月16日生まれのわたし。2人の星座は……。
中谷育
図書館を出ると、息の白さがはっきりと分かるぐらい暗かった。
中谷育
「あ……」
中谷育
顔をあげると三つの星を持った砂時計みたいな星座が私を見下ろしている。
中谷育
わたしは、短剣を持ったふりをして、あの日見た友だちと同じポーズをとる。
中谷育
「こんどは、桃子ちゃんだけじゃないんだからね!期待してなさい!」
中谷育
なんてね!
中谷育
わたしはいくつもの街灯が照らす暗い夜道を家へと駆けて行った。

(台詞数: 50)