四条貴音
…さて、準備が整ったようです。
四条貴音
ステージに出るようにとの指示を受けて、わたくしは舞台裏から続く階段を上りました。
四条貴音
顔を出せば、まるで洞穴から太陽が燦々とする野天に出たかのよう。
四条貴音
無数のさいりうむが眩しく、人々の熱気が身を焼くような、激戦に相応しいステージでした。
四条貴音
これ程の舞台は、わたくしとしても、随分久し振りのこと。
四条貴音
自分自身でも、血が滾り、心が熱くなるのを感じます。
四条貴音
向こうを見やれば、わたくしとほぼ同時に静香も、自分のステージに上がってきたようでした。
四条貴音
わたくしに気付いた静香の表情が、平静を装いきれず固くなるのが、ここからでも分かります。
四条貴音
ふふっ…。少し、脅しが過ぎたのかもしれませんね?
四条貴音
先程、ステージから降りる前に話しかけられましたので、幾らかの言葉の応酬はありましたが。
四条貴音
しかし、あの程度の会話など、舌戦という程でもないでしょう?
天海春香
「お待たせしました!これより、第二試合を開始します!」
四条貴音
わたくしの視線を遮るように立った司会の春香が、いつも以上に朗々とした声で、宣言しました。
四条貴音
おそらくは、わたくしと静香の間に漂う剣呑な空気を、ファンから隠そうとしたのでしょう。
四条貴音
しかし、春香。邪魔をしてはいけませんね。
四条貴音
火花散るやり取りもまた、勝負の華というものではありませんか。
四条貴音
大人げないと怒られるやもしれませんが、ここでもう一手、打たせてもらいますよ。
天海春香
「それでは、試合の前に、二人にフェスとライブバトル、どちらを選ぶか決めてもらいます!」
四条貴音
「…春香。少し、よろしいですか?」
四条貴音
春香の呼吸の継ぎ目にするりと入り込んで、わたくしは続く言葉を遮りました。
天海春香
「えっ…?はい、なんでしょう?」
四条貴音
突然のことに、春香だけではなく、静香もこちらを窺いながら、動きを止めています。
四条貴音
ふふっ…。言うことは同じでも、機先を制するとはこのことですね。
四条貴音
「わたくしは、フェスによる勝負を希望いたします。」
四条貴音
「そして、わたくしが歌うのは…『風花』。」
四条貴音
観客席がどよめき。そして、静香の顔が隠しようもなく強張るのが、目に見えました。
四条貴音
そうです。わたくしの十八番である『風花』。桃子の為に温存するとでも、思っていましたか?
天海春香
「た、貴音さん…!」
四条貴音
「おや、失礼いたしました。わたくしとしたことが、不覚にも気が逸っていたようです。」
四条貴音
春香の非難を、心にもない言い訳でかわしながら、わたくしは静香を見つめます。
四条貴音
「ですが、わたくしはこれを変えるつもりはありません。後は、静香次第かと…。」
四条貴音
挑発と言えば、挑発。それも、安いものでしたが…。
最上静香
「…受けます!私も、フェスで受けて立ちます!」
四条貴音
…本当に、素直で良い子です。
四条貴音
真っ直ぐに、虎口に飛び込んでくる程に。
最上静香
「歌は…『Precious Grain』を歌います!」
四条貴音
成程。自分が最も信頼を置く楽曲で、勝負に来ましたか。
四条貴音
それが最善手。と、言うよりも、それしか出来なかったのでしょう。
四条貴音
見えるということは、見られているということ。
四条貴音
わたくしは、かつての第四回大会で、あなたの傍に度々現れ、時には助言などもしましたね。
四条貴音
それには、大会を通じて成長していくあなたを分析するという目的がありました。
四条貴音
同時に、わたくしの全てを見通すような不気味さや神出鬼没の印象を、あなたに植え付けたのです。
四条貴音
そのような相手に、奇策奇襲の類は、怖くてとても選べなかったでしょう?
四条貴音
目星をつけた何人かに打っておいた布石でしたが、役に立って何よりでした。
四条貴音
「さあ、覚悟はよろしいですか?」
四条貴音
心理戦も、手練手管も、楽曲も、一切出し惜しみ無しです。
四条貴音
最上静香…これが、あなたが雪辱を誓った、四条貴音というアイドルの本気ですよ。
四条貴音
乗り越えてみなさい。打ち勝ってみなさい。できるものであれば!
四条貴音
そして、わたくしは戦いの号砲を上げました。それに相応しい、わたくしの盟友の言葉を借りて。
四条貴音
「わたくしが、蹴散らしてさしあげます!」
(台詞数: 50)