中谷育
今日も窓から入り込む陽射しが眩しいです。
中谷育
外の世界に広がるいつもと変わらない日常風景がわたしからしてみると羨ましく思います。
中谷育
わたしは、生まれてこの方、外へ出たことがありません。
中谷育
わたしは生まれて間もなく難病を発症してしまったのです。
中谷育
そんな可哀想なわたしは、ベッドの上での生活を余儀なくされたというわけです。
中谷育
齢を重ねれば重ねるほど、自我が生まれ強くなれば強くなるほど…
中谷育
窓の外に広がる世界への憧れも増していきました。
中谷育
そんなわたしを気遣ってか、母はたくさん本を与えてくれました。
中谷育
外の世界について書かれている本を山積みになるほどです。
中谷育
幸い、一日中暇を持て余していた私は、その本を片っ端から読み漁りました。
中谷育
けれど、次第に読む本もなくなってしまい、最近は窓の外を注視しているという訳です。
中谷育
朝、目が覚めてから窓を開けてわたしは外の情勢を見極めます。
中谷育
どんなに些細な変化も見逃しませんし、それを発見するのが楽しいのです。
中谷育
そして、いつも通り観察を行っているわたしは、いまとても衝撃を受けています。
中谷育
何故なら、たったいま、とても大きな変化を目の当たりにしているからです。
中谷育
窓の外は空き地で、それはもうわたし以外の人からすれば、退屈な場所でしかないのですが…。
中谷育
その空き地に人がいるのです。
中谷育
決して野良犬や、野良猫がたまたまふらっとそこにやってきたということではありません。
中谷育
なんらかの目的を持った人間がその空き地にいるのです。
中谷育
わたしは勿論その動向を追いました。
中谷育
今まさに、窓から数メートルの距離で彼女はテントを張っています。
ジュリア
「よし、できた」
中谷育
満足そうに彼女は笑みを浮かべると、汗を拭いました。
中谷育
一仕事を終えたその汗は、わたしにとってはダイヤモンドのように、輝いて見えます。
中谷育
「ねぇ、お姉さん」
ジュリア
「ん?」
中谷育
「お姉さんはそんなところでなにをしてるの?」
ジュリア
「何をって…見てわからないか?」
ジュリア
「野営の準備だよ」
中谷育
「そこ、空き地だけど、売地だよ?」
ジュリア
「ああ、知ってる」
ジュリア
「安心しなよ、この土地はあたしが買ったんだ」
中谷育
「そうなの?」
ジュリア
「ああ、これからは暫くここが拠点になるからな」
中谷育
「拠点?」
ジュリア
「ああ、そうだぜ」
中谷育
「拠点って何の?」
ジュリア
「冒険だよ」
ジュリア
「アタシはさ、旅人なんだ」
中谷育
「わー、わたし、冒険家の本たくさん読んだことあるよ!」
中谷育
「お姉ちゃん、冒険家なんだ、すごいね!」
中谷育
「でも、こんな辺ぴな町を拠点にするの?」
ジュリア
「まあな、探しモノがここらへんにあるみたいなんだ」
中谷育
「探し物って宝物!?」
ジュリア
「まあ、そういうことだ」
ジュリア
「それは、アタシが…いや、アタシ達がずっと追い求めてたものなんだ」
中谷育
「そうなんだ…?」
ジュリア
「話せば長くなると思う」
中谷育
「大丈夫、わたし、一日中暇だから!」
ジュリア
「わかった、それじゃあ聞かせてやるよ、アタシ、いや、アタシ達の旅の話を…」
(台詞数: 50)