如月千早
……あ、お帰りなさいプロデューサー。今日もお疲れ様です。
如月千早
……いえ。今日のレコーディングは、つつがなく終わりました。それからこちらに来ました。
如月千早
……直帰していいとは聞いていたのですが、まっすぐ帰ってもする事が無いので。
如月千早
……いま何をしていたか、ですか。実は、徳川さんがマンガを貸してくれたので、読んでいます。
如月千早
意外ですか?……実は自分でもそう思ってるんです。歌以外のものに興味を持つことが有るなんて。
如月千早
……確かに自宅でも読めますよね。でも私の場合、のめり込んだら際限無く読み続けそうなので……
如月千早
……
如月千早
……徳川さんのマンガですけどね。ファンタジーもので、過去に出た長編の続編だそうです。
如月千早
前作で大魔王を封印したのですが、新たな悪、悪夢を司る妖精王と対峙することになったそうで……
如月千早
主人公やヒロイン達は、悪夢の世界に閉じ込められてしまうんです。
如月千早
……どんな『悪夢』だと、プロデューサーは思いますか?
如月千早
……
如月千早
……それは、先代の勇者だったヒロインの兄が、志半ばで死ななかった世界、なんです。
如月千早
……愛する家族が失われなかったら、それは幸せな世界なのでは、ですか?
如月千早
……その通り、なんです。
如月千早
兄が死ななかったために、『悪夢』ではヒロインは実に幸せです。家族揃って日々を送っています。
如月千早
……
如月千早
でも、それは『悪夢』なんです。主人公とヒロインが出会うことが無く……
如月千早
世界を救うはずの主人公が、悪の道に落ちて、人間界を滅ぼそうとする存在になってます。
如月千早
仲間達も散り散りで、戦う力を失ったり、孤独な復讐者となり彷徨ったり……
如月千早
……このマンガは完結していないそうですが……世界の滅びを止められない雰囲気です。
如月千早
……
如月千早
……すみませんプロデューサー。興味をお持ちか確かめず、いきなり語り出してしまって。
如月千早
……私、考えたんです。なんで徳川さんは、数あるマンガの中からこれを私に貸してくれたのか。
如月千早
『過去』がもし無かったなら、『今』は存在しない。たとえ『過去』がどれだけ辛いものでも、
如月千早
それを通過してこその「出会い」がそんざいして、だからこそ、現在の自分が有るんだ。
如月千早
……そういうことを、徳川さんは言いたかったのかもしれないです。
如月千早
……私も、『過去』は辛いし、できればあの『過去』を取り消したいです。
如月千早
でも、そうしてしまえば……アイドルを志す自分、ここで仲間に出会う自分は消滅してしまうかも。
如月千早
……考えすぎでしょうか、私。
如月千早
……そういう思考の無限ループに陥るのが嫌で、家で一人きりで読むのを避けているのかも。
如月千早
……あ、気にしないでくださいプロデューサー。私だって、少しずつは強くなっているんです。
如月千早
過去に囚われすぎてはいけないし、過去のことから逃げてもいけない。今はそう考えてます。
如月千早
……プロデューサーや、劇場の仲間のおかげで、そう考えられるようになりました。
如月千早
……
如月千早
プロデューサー。劇場の中には、強そうに見えて実は脆い子もいるのでは、と思います。
如月千早
例えば徳川さんだって、アイドルとしての能力も、人を気遣う性格も傑出してますけど……
如月千早
それ故に、自分の苦悩を誰にも明かせられない、かもしれないんです。
如月千早
だから……劇場のみんなの事に、気づいてあげてください。
如月千早
そして……私にできることが有るなら、私も頼っていただけないでしょうか。
如月千早
大丈夫です。私も、誰かに支えられるだけでなく、誰かを支えられるようになりたい、ですから。
(台詞数: 41)