中谷育
【割れ物は新聞紙でくるんで、そおっと箱の中へ】
中谷育
【お洋服はきちんとたたんで、皺にならないように、綺麗に揃えて】
中谷育
【お引っ越しのお手伝いという、普段とちょっと違うお仕事に、最初のうちはわくわくしながら】
中谷育
【だんだん片付いていく部屋のなかは、何だか少し寂しくなってきて】
中谷育
「あっ、去年のステージでこのみさんが着けてたペンダント……」
馬場このみ
「あら本当、何処に行ったかと思ったら、こんな所に入ってたのね」
中谷育
「これ、すっごい凝っててキレイだよね!星の形のチェーンがキラキラしてる!」
馬場このみ
「ウフフ、気に入ったならあげようか?」
中谷育
「あ、いえ、そんなつもりじゃ……」
馬場このみ
「いーのいーの。どうせもう着ける気無かったし」
中谷育
「でも、これ……」
中谷育
【多分、プロデューサーさんから貰った……】
中谷育
【先週、このみさんは事務所を辞めた】
中谷育
【来週には、アメリカへ行くのだと】
中谷育
【ずっと夢だった、ブロードウェイの舞台に挑んでみたいと】
中谷育
【何の当てもなく、たったひとりで】
中谷育
【事務所のみんなで開いたお別れパーティーに】
中谷育
【プロデューサーさんは、いなかった】
中谷育
「……………ねえ、このみさん」
中谷育
「どうしてプロデューサーさんは、事務所をやめちゃったのかな……」
馬場このみ
「……育ちゃんも聞いたでしょ?小説家になる夢を諦められなくて……」
中谷育
「そうじゃなくて!」
中谷育
「私だって子供じゃないんだから、わかるよ?」
中谷育
「夢のためだからって、このみさんを置いて辞めちゃうなんて……」
中谷育
「そんなの……………」
馬場このみ
「そうね、確かにヒドい話よねー」
馬場このみ
「その上アイツ、待ってて欲しいとか言ってるのよ。笑っちゃうわよねー」
中谷育
「……でも、このみさんは待たないで、アメリカへ行っちゃうんでしょ?」
中谷育
「……………どうして?」
馬場このみ
「……うーん、何て説明したら良いのかしら……」
馬場このみ
「そうね、例えば……私達が明日、一緒のお仕事で事務所で待ち合わせするとしたら」
馬場このみ
「今からずっと事務所で待ってたりするかしら?」
中谷育
「えっ、そんなのお家帰ってから、明日の朝に事務所行くよ?」
馬場このみ
「そうでしょ?また会う時まで、お互い自由にしてりゃいいの。それが大人の約束ってもんよ」
中谷育
「……でも、もし約束の時間に遅刻したりしたら……?」
中谷育
「何かの事故に遭って、来られなくなっちゃうかも知れないよ?」
馬場このみ
「ま、その時ゃその時で、何とかするのが大人のレディってもんなのよ」
中谷育
【そう言った当のこのみさんの横顔に、一寸陰りが見えた気がして】
中谷育
【けれどもそれは口には出せず、喉元に引っ掛かったまま】
中谷育
【荷造りに戻る】
中谷育
「あ、このワンピース、可愛い!」
馬場このみ
「どれどれ?あーそれかー。買ったは良いけど色が気に入らなくて、結局着なかったなー」
中谷育
「えー?もったいない!こんなに可愛いのに」
馬場このみ
「じゃあ育ちゃんにあげようか?サイズ詰めれば着られないことも無いかも」
中谷育
「本当?ありがとう!じゃあ、ちょっと着てみてもいい?」
馬場このみ
「あらあら、しょうがないわねー。じゃあ、直しの当たりをつけたげるから、着てご覧なさい」
中谷育
「わーい!」(ゴソゴソ)
馬場このみ
「えーと何センチ位丈を詰めれば……」
馬場このみ
「………詰めれば……………………」
中谷育
「……………………………」
(台詞数: 50)