豊川風花
【ステージ上では、千鶴ちゃん達がセッティングの最終確認をしている。】
豊川風花
【シールドを捌いたりチューニング合わせをしたりと、各人が忙しく動く中で、】
豊川風花
【千早ちゃんだけが、眼を閉じたまま、静かに座している。】
豊川風花
【私とてプロデューサーの端くれ、これから彼女が歌う曲の難しさは、想像に難くない。】
豊川風花
【まず、この曲には楽器演奏が無い。】
豊川風花
【即ち、リズムを取る手段は、自身の感覚頼み。】
豊川風花
【しかも、観客の耳が全て自分の声のみに傾けられるシビアさ。】
豊川風花
【そして、この曲の歌詞。日常の一幕を淡々と語る内容は……、】
豊川風花
【そこに何をイメージして歌うかによって、印象が大きく左右される。】
豊川風花
【演壇上の彼女の落ち着きぶりを見るに、良い準備が出来ている様子ではあるが……。】
豊川風花
【開演を告げるアナウンスが流れ、店内の喧騒は忽ち収束し、客の視線が壇上に集まる。】
豊川風花
「………頑張って……。」
豊川風花
【そして、彼女は歌い始める。】
如月千早
♪I am sittin' in the morning at the……♪
如月千早
【普段より音を下げた、アルトの歌声が、静かに、空間に、流れ出す。】
如月千早
【いえ、空間を、優しく満たす……。】
豊川風花
【気が付けば店内は、雨の朝の、緩く靄がかった空気に包まれている。】
豊川風花
【これが彼女の、実力……。歌姫と呼ばれる、所以……。】
豊川風花
【……………。】
豊川風花
【その歌声から伝わる、彼女と、彼女以外との、距離。】
豊川風花
【カップに半分しか注がれないコーヒー、新聞記事の俳優の訃報は、興味の外。】
豊川風花
【窓外の女性の視線は、窓硝子に遮られ、自分には届かない。】
豊川風花
【小雨の中、微かに響く、大聖堂の鐘の音……。】
如月千早
♪I am 君の
如月千早
♪I am thinking of 君の 声を
如月千早
♪I am thinking of your voice 君の 声を 思い出す
豊川風花
【……………!】
(台詞数: 27)