暗澹のアンティークショップにて
BGM
月のほとりで
脚本家
親衛隊
投稿日時
2017-03-07 21:51:53

脚本家コメント
暗いです。

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天空橋朋花
眼鏡をかけた黒髪の女性は、いつも通り満面の笑顔で別れの挨拶を告げてから、店を後にした。
天空橋朋花
『店主さんも同じ気持ちだったら嬉しいんですが』
天空橋朋花
その言葉に応えることは叶わなかった。
天空橋朋花
「気持ち……」
天空橋朋花
「もしも、そのような気持ちを持っていたのなら、彼女のように純朴に振る舞えたでしょうか」
天空橋朋花
独り呟き、テーブルの上にあった手記を手に取る。
天空橋朋花
「これも、いつの間にかアンティークと呼ばれるようになったのですね」
天空橋朋花
パラパラと捲ったページは所々が欠落している。
天空橋朋花
欠けた部分を優しく指でなぞると、微量の煤が付着した。
天空橋朋花
「……」
天空橋朋花
私がこの手記を手にするのは、決まって大きな感情の移ろいを感じたとき。
天空橋朋花
手記を用いて行うのは記憶の見直し。
天空橋朋花
「懐旧の情というのは、必ずしも美しいものとは限りませんから、ね」
天空橋朋花
朧気になりかけている記憶をゆっくり廻り、火を灯していく。
天空橋朋花
1つ、また1つ慎重に辿る作業。
天空橋朋花
決して忘れてはならない記憶がある。
天空橋朋花
そう、決して──。
天空橋朋花
────
天空橋朋花
とある暗澹の日、私は人という生き物を過大評価していたことに気付く。
天空橋朋花
それまで私の知る人は主だけだったので、若干補整がかかっていたのかもしれない。
天空橋朋花
主は、所詮玩具でしかなかった“我々”を家族として見てくれた唯一の人だった。
天空橋朋花
天涯孤独だった主は、人形を心の拠り所にしていた。
天空橋朋花
私が生まれたとき、凡そ数千の硝子玉の瞳と目が合ったのを覚えている。
天空橋朋花
屋敷中が人形で溢れかえっていた。
天空橋朋花
しかし、これを異常とは思わなかった。
天空橋朋花
これは、1つの愛の形なのだと理解していた。
天空橋朋花
我々は主を慕っていた。
天空橋朋花
我々の間に言葉などなくとも、必ずどこかで繋がっている。
天空橋朋花
そう思えるだけで充分だった。
天空橋朋花
親愛はやがて、自我を持たない筈の人形に意思を齎した。
天空橋朋花
あのまま平穏が続いていれば、人と人形のハートフルストーリーが待っていたのかもしれない。
天空橋朋花
だが、そうはならなかった。
天空橋朋花
優しかった主の笑顔は、紅蓮の炎によって爛れ落ちた。
天空橋朋花
屋敷も、家族も、想いさえも、全てが瓦礫と灰の中に埋もれてしまった。
天空橋朋花
暗闇の中で誰かの啜り泣く声を聞いた。
天空橋朋花
子を呼ぶ母の声だった。
天空橋朋花
その嘆きが、人の放つ好奇のざわめきに掻き消されたとき、
天空橋朋花
感情が私の中に芽生えた。

(台詞数: 38)