天空橋朋花
「……うふっ。こうして積まれますと、なかなかに壮観ですね～。」
天空橋朋花
―11日から12日になろうとする頃。バースデーライブを終えた朋花と俺は、事務所にいた。
天空橋朋花
―義務教育期間の朋花を遅くまで拘束するのは気が引ける。ただ、どうしても二公演が必要だった。
天空橋朋花
―俺の担当アイドル、天空橋朋花。生来の君臨者と思わせる程のカリスマ性を持つ少女。
天空橋朋花
デビュー以来着実にファンは増え、比較的大きな小屋でもすぐにチケットは完売する。
天空橋朋花
まだ持ち歌は少ない……むしろ、トークと投げられる視線で「子豚ちゃん」達は満足している。
天空橋朋花
「……どうかされましたか、プロデューサーさん。まだ、全ての箱を整頓できてないですよ～。」
天空橋朋花
「まさか、乱雑に置いた捧げ物で事務所を散らかし、明朝私に恥をかかせるつもりですか～。」
天空橋朋花
―そう。俺達が帰社したときには何人かのアイドルと事務員さんが残ってくれていた。
天空橋朋花
―だが、先に帰ってもらったのだ。朋花から、全てのプレゼントを積むことを拝命したから。
天空橋朋花
―かくて、事務所ビルの一室に移し、それを積み上げるという肉体労働に従事している。
天空橋朋花
―独りで。朋花に負担させる発想は毛頭無いし、周囲に迷惑をかけるのも朋花の思召しではない。
天空橋朋花
―さながら俺は、女神たる朋花に仕える神官。朋花の素晴らしさを世に広めることが務めの全て。
天空橋朋花
―……などと、思い上がるつもりはない。過去には有ったが、朋花に看破されて以来、改めた。
天空橋朋花
―朋花をベストな状態にし、朋花に最高の場面を用意すること。慢心無く、それに専心する。
天空橋朋花
―それだけで、こうして朋花の支持者は殖える。朋花の無限の「愛」を受けられる者が増すのだ。
天空橋朋花
「……はい、お疲れ様でした～。整然と並べられたほうが、私に相応しい光景ですね～。」
天空橋朋花
―時間が掛かりすぎたか。朋花の誕生日という今日この日は名残惜しいが、もう送って帰らねば……
天空橋朋花
「折角ですし、早速幾つか開けましょうか～。はしたない振舞い、他人が居たらしませんけどね。」
天空橋朋花
―……こういう年相応の子供らしい部分も、ゆくゆくは世に出していくべきだろうか。
天空橋朋花
―朋花のカリスマを狂信的に支持する者は幻滅するかもだが、今見せてる笑顔は素敵だから。
天空橋朋花
―……プロデュースに関わるそんな事を考えながら、俺は今しがた積んだ箱を幾つか降ろした。
天空橋朋花
―「それは構わないが、朋花。贈り物は、俺か事務所の人間があらかじめ中身を改めるものだぞ。」
天空橋朋花
―「悪意ある者が、不快を与える物を寄越して来る可能性も有るし……」
天空橋朋花
「大丈夫ですよ～。私が愛を与えているのです。子豚ちゃん達も、愛ある返礼をするものですわ。」
天空橋朋花
「万一、悲しむべき捧げ物が在ったのなら……それはひとえに、私の愛が足りていない証。」
天空橋朋花
―なんの迷いもなく、こんな風に言いきる。それが、朋花という少女だ。
天空橋朋花
―プロデュースのためのキャラ作りではない。俺が「姑息に」仕掛けしなくも、朋花は魅力的だ。
天空橋朋花
「……あら、こちらはサッカーのユニフォームですか。以前私が監督をしていたゆえ、ですか～。」
天空橋朋花
―「……いや、朋花。どうやら違うようだ。手紙が添えられているが……」
天空橋朋花
『11月11日はサッカーの日ですので、プレゼントにこれを選びました。』……
天空橋朋花
「……次を見ましょう。携帯電話のモバイルバッテリーですね～。移動の際便利ですね。」
天空橋朋花
『……朋花様のご生誕日は、電池の日だそうです。ご笑納ください。』……
天空橋朋花
「……こちらは、着物の端切れを使った栞、ですか。なかなか艶やかですね～。」
天空橋朋花
『11月11日生まれの朋花ちゃんに、西陣織を贈ります。11月11日は西陣織の日です。』……
天空橋朋花
……
天空橋朋花
「プロデューサーさん?明日、捧げ物の内容と送り主のリストを作ってくださいね～。」
天空橋朋花
―「御礼状を送るつもりか?宛先はこっちで印刷するから、サインカードを入れる位にしとけよ?」
天空橋朋花
「そうしますわ。真っ当な贈り物にはサインカードを。」
天空橋朋花
「そうでない贈り主には……空の封筒を送って差し上げようかと～。」
天空橋朋花
「空の封筒に再礼されたら、『贈ってない物に礼を述べるとは、可笑しい』と責めてあげますわ。」
天空橋朋花
―「封筒が空でしたよ、と正直に伝えてきた相手には、どう答えるつもりだ?」
天空橋朋花
「この私が、『誤って』中身を入れず送ったのでも言うのですか～、と、質してあげますわ。」
天空橋朋花
―(『誤って』やってはいない。意図的だから。……恐ろしい二択攻撃だ。)
天空橋朋花
「私がこの世に生を受けたのが、たまたま11月11日だったというだけの事なのに……」
天空橋朋花
「その日取りに囚われた捧げ物をするとは。私自身を見ず、贈るためだけの贈り物かと～。」
天空橋朋花
―(……実は双子から、朋花様へと定番のプレッツェル菓子を預かっているが……日を改めよう。)
天空橋朋花
「……ときに。私、肝心のプロデューサーからは、私を祝う言葉も贈り物も受けていませんよ～。」
天空橋朋花
「家族ほど私と長く共にいる貴方なら……私のための、贈り物をしてくれますよね～。」
天空橋朋花
―勿論さ。…俺は、カリスマやアイドルという以前に、ひとりの人間・『朋花』を支えているんだ。
(台詞数: 50)