天空橋朋花
「げに林檎とは、何とも奥深い果実ですね〜。」
木下ひなた
……朋花さんの話は、ときどき唐突だべさ。今も、あたしに話しかけたのか独り言か分からんわ。
木下ひなた
「あの、朋花さん……いつかのリンゴ、すっぱかったんかなあ。ごめんなさいだわ。」
天空橋朋花
「あ……聞こえてしまいましたか、ひなたちゃん。気にしないでくださいね〜。」
天空橋朋花
「ひなたちゃんの下さるリンゴやトマトは、陽の光と土の優しさを含んで、美味しいですよ〜。」
天空橋朋花
「今しがたの言葉は、ただの独り言ですわ〜。あまり聞き耳を立てては、良くないですよ〜。」
木下ひなた
「そうかねえ。朋花さんが嫌な思いしてないなら、良かったんだわ。」
木下ひなた
……それでも気になってしまうべさ。さっきの朋花さん、ため息までついてたから。
木下ひなた
「あの、朋花さん!リンゴや野菜のことでなくても、何か困ってることあるんでないかい?」
木下ひなた
「今さっきは、ため息までついてたべさ。あたしでは話しても仕方ないかもしれないけど……」
天空橋朋花
「……聞き耳は感心しないと言ってますのに〜。でも、聞かれてしまっては致し方ないですね〜。」
天空橋朋花
「何と言いますか……私も、随分『遠くまで』来てしまったのかもしれない、などと考えて。」
木下ひなた
「朋花さん、お仕事で台湾さ行ったりしたもんねえ。長いワラジを履いたかねえ。」
天空橋朋花
「うふっ。その表現では、私が罪を犯したかのようですね〜。時代劇の物言いはお気をつけて。」
木下ひなた
「あ、ごめんなさい。そんなつもりは……」
天空橋朋花
「いいですよ〜。たぶん、ひなたちゃんの周りのおじいちゃんが教えてくれた言葉でしょうし〜。」
天空橋朋花
「……話が逸れましたね〜。旅行の話ではなく、アイドルになってから、私も変わったものだと。」
木下ひなた
「朋花さんは、出会った頃から今まで、ずっと同んなじ雰囲気だけどねえ。」
天空橋朋花
「この世界に入るまでは、私は在るがまま振舞って君臨してさえいれば良いと考えていました……」
天空橋朋花
「それが今は、少しでも支持者……ファンを増やしたい、多くの人に知られたいと思ってます。」
天空橋朋花
「アイドルに成らなければ知らなかった筈の、欲望なのか義務感なのか。」
天空橋朋花
「私自身の中に、そういう感覚が有るのが可笑しくて……つい、独り言が出たようですね〜。」
木下ひなた
「……でも、それとリンゴが、なにか関係が有るんかい?よく分からないべさ。」
天空橋朋花
「かつて人間が創られたとき、創造主は彼らを、楽園の中に留めたそうです。」
天空橋朋花
「食べ物に満たされ、危険な生き物は居ない、悩み無く永遠を過ごすことが約束された、ね。」
天空橋朋花
「ところが人間達は、『知恵』を木の実を食べることで得て……楽園を追放されたのですね。」
木下ひなた
「なんで、知恵を付けたらダメだったんかねえ。」
天空橋朋花
「……知らなくてよい事を、知ったから、でしょうね〜。それは創造主の望むことでないから。」
天空橋朋花
「まあこれは、とある宗教のお話ですけどね〜。」
天空橋朋花
「それはともかく。アイドルとしての自分を『知った』私は、もう以前の私とは違うのですね〜。」
天空橋朋花
「それは『罪』なのか、あるいは『私自身に成るため』に必然か……未だ分かりませんが。」
木下ひなた
「……やっぱり朋花さんのお話は、よく分からないべさ。」
天空橋朋花
「……それでもいいですよ〜。ひなたちゃんに聞いてもらって、胸の痞えが楽になりました〜。」
木下ひなた
……
木下ひなた
……ごめんね朋花さん。本当はあたし、今の朋花さんのお話、少し分かる気がするわあ。
木下ひなた
あたしもねえ、田舎に居たときと今とでは、変わって来たことが有るべさ。
木下ひなた
……キラキラした衣装、照らされた舞台、声を掛けてくれる沢山の人達。前は想像もできんかった。
木下ひなた
……造花や香水なんて、自然とは違うからあたしには合わないと思ってたけど……
木下ひなた
ミックスナッツの公演で、紙吹雪とアロマさ振舞われたときは……凄く感動したべさ。
木下ひなた
……あたしも、昔のあたしとは違うんだよねえ、たぶん。
木下ひなた
……田舎にいて、ばあちゃん達がしてきた人生をなぞって、テレビは眺めるだけ。
木下ひなた
……もしっか、いまアイドルを辞めても、そんな生き方に疑問を持たないあたしには、戻れないわ。
木下ひなた
……これからのあたしは、どうなって行くか分からないんだわ。
木下ひなた
……
天空橋朋花
「あらあら、今度はひなたちゃんが何か困っちゃったみたいですね〜。」
木下ひなた
「あ……ごめんだわ朋花さん。朋花さんに心配掛けてもらうつもりは無かったんだけどね。」
天空橋朋花
「……私には、ひなたちゃんの心の裡を全て知ることはできませんけど……」
天空橋朋花
「私達がアイドルに成らなければ、たぶん出会うことも無かったんですよ〜。」
天空橋朋花
「話したかったら、何なりと話してくださいね〜。私では、頼りにならないかもしれませんが。」
木下ひなた
「……朋花さん、ありがとね。あたしも、朋花さんに会えて良かったと思うんだわ。」
(台詞数: 50)