馬場このみ 29歳 プロデューサー23話
BGM
オリジナル声になって
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-08-13 13:14:37

脚本家コメント
第2章「うそつきアップルパイ」9話
【ここまでのお話】
 武道館ライブ後、仮眠をとっていたこのみは5年後の765プロに心だけタイムスリップしていた。自らの身体の変化に戸惑うものの、プロデューサーとして活動することを決意する。
 ひなたが悩みがキャラづくりではないと判断したこのみだったが、他の考えはなかなか思い浮かばない。海外ロケから帰ってきた莉緒と一緒に、エミリーを待ちつつこれまでの情報を整理するがなかなか答えが見つからない。そんなとき、帰国したエミリーからひなたの悩みにつながる有力な情報を得る。

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木下ひなた
「ただいま戻りました」
馬場このみ
「お疲れさま、ひなたちゃん」
エミリー
「ひなたさん、お疲れ様です」
木下ひなた
「わぁっ、エミリーちゃん、戻って来とったんかい!」
エミリー
「はい。今日の午後の便で帰ってまいりました」
木下ひなた
「そっだら、疲れてるんでないかい?なしてまた、事務所に」
エミリー
「初めは明日に事務所へ顔を出す予定だったんですが……1つ用事ができたものでして」
木下ひなた
「用事だなんて……身体を壊したら大問題だべ!」
エミリー
「いえ、これは私の大事お友達にかかわることでしたので、確認だけでもしておきたかったのです」
木下ひなた
「確認……かい?」
馬場このみ
ひなたちゃんは顔に?マークを浮かべた。その隙に私はエミリーちゃんに目配せする。
エミリー
「ええ……そして、いま、確認が取れました」
馬場このみ
私はエミリーちゃんにありがとうと言って、ひなたちゃんの前に立った。
馬場このみ
「あのね、エミリーちゃんに用事をお願いしたのは私なの」
馬場このみ
「そして、確認して欲しいと言ったのは……ひなたちゃん、あなたのことよ」
木下ひなた
「……あ、あたし!?あたし何かしたかい?」
馬場このみ
「……悩んでいることがあるわよね。収録後に暗い顔することがあったわ」
木下ひなた
「そ、そっだらこと……」
馬場このみ
「そう思っているのは私だけじゃないの。律子ちゃんに千鶴ちゃん、他にもいるわ」
木下ひなた
「……」
馬場このみ
「私の中の答えは出てるの。でも、ひなたちゃんと答え合わせをしないと」
馬場このみ
私は身じろぎしないひなたちゃんをじっと見つめ、小さく息を吸って言葉を発した。
馬場このみ
「ひなたちゃん、あなた、共通語を喋れるわよね。そして、無理して方言を使ってる」
馬場このみ
私は息を飲んでひなたちゃんを見つめた。隣のエミリーちゃんも同じようにしている。
木下ひなた
「……なして、そう思うんだい」
馬場このみ
「ヒントは色々あったわ。千鶴ちゃんの番組に出た時のこととかね」
馬場このみ
ひなたちゃんが千鶴さんのコーナーに出た時、お邪魔した家はひなたちゃんと同郷の方だった。
馬場このみ
その時、ひなたちゃんよりも東京に来て浅いはずの一家は流暢な東京の言葉を喋っていた。
馬場このみ
「でも、一番の決め手は、エミリーちゃんよ」
エミリー
「日本に精通するために皆さんの言葉には気を付けていたんです」
エミリー
「方言や訛りは地域で変わるのでとても興味深かったので特に念入りに」
エミリー
「それで過去の映像を見ていた時に、ひなたさんの言葉の抑揚が変わっていることに気付きまして」
馬場このみ
エミリーちゃんの流暢な日本語の裏には並々ならぬ努力と好奇心がある。
馬場このみ
そのことが、誰も分からなかったひなたちゃんの言葉の変化を気付くきっかけとなった。
エミリー
「ひなたさんは私の大事なお友達です。だから……悩んでいるのなら力になりたいんです」
馬場このみ
「私も同じよ。大事な仲間なんだから。もちろん、律子ちゃんや千鶴ちゃんも同じ気持ち」
木下ひなた
「……」
馬場このみ
ひなたちゃんは口を開かない。じっと、服の裾を掴んで足元を見つめている。
エミリー
「ひなたさん、私は、いえ、私たちはひなたさんがウソをつきたくてついてるとは思っていません」
エミリー
「誰もひなたさんを責めたりはしませんから。それはきっと、ファンの人たちも同じです」
木下ひなた
「……」
木下ひなた
「……もう、潮時なのかもねぇ」
馬場このみ
強張っていたひなたちゃんの肩から力が抜けた。
エミリー
「と、いうことは……」
木下ひなた
「2人の言ったとおりだよぉ。あたしはね」
木下ひなた
「ううん、私はね、方言なんてとっくに抜けてるの」
木下ひなた
「みんなに……ずっと……ウソを、ついてたの」
馬場このみ
窓の外に見えるアスファルトに雨粒が落ちる。
馬場このみ
ひとつ、ふたつと染みができ、そして、アスファルトを濃い黒へと変えていく。
馬場このみ
雨音が激しくなる。私とエミリーちゃんは重い音に包まれ、ひなたちゃんをじっと見つめていた。

(台詞数: 50)