エミリー
「とても素晴らしい歌劇でしたね、仕掛け人さま!」
エミリー
私の問いかけに仕掛け人さまは、「そうだな」と同意してくれました。
エミリー
その表情は、歌劇を見た感動のほかに、私が喜んでいたことに対しての嬉しさの色が見えました。
エミリー
「私、まだ心臓がどくどくと言ってます。舞台の上とはまた違ったどきどきです」
エミリー
「世界にはこのような感激も存在するのですね。私、まだまだ未熟者です…」
エミリー
仕掛け人さまは『俺だってこんな感動は初めてだ』と返してくれました。
エミリー
「ふふっ。仕掛け人さまも楽しかったみたいですね」
エミリー
「ふふっ。仕掛け人さまも楽しかったみたいですね…くちっ」
エミリー
夜の寒気に体を震わせ、小さなくしゃみが出てしまいました。
エミリー
そういえば、今の衣装は背中が大きく開いた礼装でしたね。
エミリー
普段と違って、髪を下していたおかげで背中は隠れていましたが、それでも寒さは伝わります。
エミリー
私のくしゃみを聞いた仕掛け人さまは、背広を掛けてくださいました。
エミリー
背広から香る仕掛け人さまの匂いが、私の鼻孔をくすぐります。
エミリー
……十分ほど前まで、私と仕掛け人さまは同じ劇場で、同じ歌劇を鑑賞していました。
エミリー
仕掛け人さまと二人だけで共有している、ということが嬉しくて。
エミリー
仕掛け人さまと二人だけで共有している、ということが少し照れくさくて。
エミリー
仕掛け人さまと二人っきりの思い出を作った、ということに思わず笑みがこぼれてしまいます。
エミリー
仕掛け人さまと二人っきりの思い出が…。
エミリー
……ああ、そういうことだったんですね。
エミリー
劇場へと出発する前、私は、自分が自分でないと思ってしまうほどに舞い上がっていました。
エミリー
そのときは、これほどまでに歌劇を観られることが楽しみなのだと思っていたのですが。
エミリー
どうやら、あの心の浮遊感はそれだけではなかったみたいです。
エミリー
仕掛け人さまと一緒に歌劇を観られるということが。
エミリー
仕掛け人さまに歌劇の観賞を誘っていただけたことが。
エミリー
広い劇場で、仕掛け人さまと隣同士で座れることが。
エミリー
仕掛け人さまと一緒にいられることが何より嬉しかったのです。
エミリー
『仕掛け人さま、エスコートしてくださいますか?』
エミリー
出発前に、こう言っていたことが…。
エミリー
『先導』でもなく『導いて』でもなく、『エスコート』と言ってしまったことが…。
エミリー
『エスコート』と言ったことに気づかなかったことが、何よりの証左です。
エミリー
…仕掛け人さまは、気づいてくださらなかったみたいですが。
エミリー
…というか、この方はこれからもずっとそうでしょう。誰からの感情もまるで気づかずに。
エミリー
私達皆を、大切なアイドルとして見続けてくださるのでしょう。
エミリー
それはそれで嬉しいのですが、やっぱり、不満もあります。
エミリー
父が母を射止めた時のように、情熱的な愛を示せば鈍感な仕掛け人さまにも伝わると思いますが…。
エミリー
私の思い描く大和撫子とは真逆の行動ですし、何より仕掛け人さまを困らせてしまうでしょう。
エミリー
だから、今はこのままでいいんです。
エミリー
仕掛け人さまとお仕事をして。一緒の思い出を創って。ひっそりと思いをはせる。
エミリー
…この気持ちを抑え、制御しきることができるかどうかは、若輩者の私には分かりませんが。
エミリー
それでも…それでも、これだけは今、伝えさせてください…。
エミリー
「仕掛け人さま」
エミリー
少し手持無沙汰そうにしている仕掛け人さまの手を取って。
エミリー
「これからもずっとずっと…私の事を、エスコートをしてください♪」
(台詞数: 43)