エミリー
英国を旅立って早幾年…
エミリー
私がまだ、この国に、大和撫子の世界に足を踏み入れたばかりの頃は…
エミリー
目まぐるしい程に忙しく、充実した日々が続いたせいか…
エミリー
母国に残して来た家族や友人の事を想う暇(いとま)もありませんでした。
エミリー
月日は流れ、四季折々を肌身に直に感じさせる日本での暮らし。
エミリー
脳裏に焼き付く、そんな目新しい生活模様。
エミリー
多忙を極めた日常も、軈て、落ち着いていきました。
エミリー
慣れとは怖いもので、次第に日々は色を薄めていきます。
エミリー
良い言葉で例えるならば、それは私が同化できてしまった、ということでしょうか。
エミリー
誠に光栄なことで、嬉しく思います。
エミリー
けれど、同時に、そこには余裕が生まれてしまったんです。
エミリー
それまでは、脳裏を掠りもしなかった、遠くに置いてきた人々…
エミリー
それが、浮かび上がってくるようになりました。
エミリー
初めは気にしないようにしていたのですが…
エミリー
結局は、ずっと見て見ぬ振りを続けることなんてできませんでした。
エミリー
故郷の人々の顔が脳裏から離れなければ、離れないほど…
エミリー
呼応するように、私の想いも、不思議なことに強まっていくんです。
エミリー
故郷から視線を逸らして落としてみると、視界に入るごヒイキさまからのお手紙。
エミリー
それを見て、ふと、思い出したんです。
エミリー
そういえば、もうしばらくの間、故郷と手紙のやり取りをしていないことを…
エミリー
そう思って筆を取ってみても、中々筆が進まない。
エミリー
白紙の和紙と睨めっこをしてみても、経っているのは時間だけ…
エミリー
もし、これがわびさびを感じさせる邦画なのだとしたら…
エミリー
この場面は、きっとこんな始まり方をするのでしょうか…
エミリー
………
エミリー
一三歳の時に故国を捨てて、日出国に来た一人の英国少女は珍しく筆を取り…
エミリー
故郷にいる家族宛に、手紙を綴ろうとしている…
エミリー
しかし、皮肉な事に想いと反し筆は走らず…
エミリー
その代わりに、雨足が小走りをして走っているようだった…
エミリー
その雨音がなんとなく心地良く感じたのは…
エミリー
その雨が妙に故郷を彷彿させるものだったからだろう。
エミリー
少女が憧れ、やって来たこの国には四季がある。
エミリー
実際に、それを見て、聞いて、少女が知ったことは…
エミリー
同じように少女の国にも四季があるということ。
エミリー
そして、なによりも、英国では一日の中にも四季がある。
エミリー
それに気付いた時、少女は少し笑っていた。
エミリー
寂しさを誤魔化すように、ほんの少しの間だけれど…
エミリー
肩を震わして、まるでおどけるように笑ってみせただろう。
エミリー
けれど、本当は少女が深い郷愁に駆られていたこと…
エミリー
それを誰かに明かすことは恐らくこの先、一生ないだろう。
(台詞数: 40)