北沢志保
「……」
北沢志保
何も、残っていない。
北沢志保
私たちの劇場があった場所は今、見事な更地になってしまって。
音無小鳥
『765プロシアター移転のお知らせ・第2劇場への移転に伴い当劇場は閉鎖致します…』
北沢志保
ここに劇場があった事を伝えてくれるのは、無機質な看板一つだけで。
音無小鳥
「志保ちゃん、来てたの。」
北沢志保
「ちょっと、近くまで来たものですから。小鳥さんこそどうして?」
音無小鳥
「似たようなものよ。」
北沢志保
「……」
音無小鳥
「……ねえ。」
北沢志保
「すみません、ちょっと今は何も聞きたくないので。」
音無小鳥
「…後悔してるの?」
北沢志保
「…分かりません、そんな事。それにたとえ、いくら後悔したって。」
北沢志保
そう。小鳥さんが何を言いたいのか、そんな事くらい分かっている。
北沢志保
いくら悔やんでも嘆いても。あの劇場はもう戻ってこない。実際、もう無くなってしまった。
北沢志保
だから。劇場に今までの感謝を込めて、新しい劇場で精いっぱいー
音無小鳥
「志保ちゃん。後悔したっていいのよ、いくらでも後悔なさい。」
北沢志保
「え?」
音無小鳥
「感謝して、割り切って前に進む。理屈は正しくても、実際そんな簡単にはいかないわ。」
音無小鳥
「だったら、いくらでも気が済むまで後悔していいの。」
北沢志保
「……そんな事して役立つとは思えません。それに今更悔やんだって、もうあの劇場は。」
音無小鳥
「そうね、たしかに。でも、次に活かす事は出来るかもしれないわ。」
音無小鳥
「2度とこんな思いはしたくない。その為に何が出来るかを考える。」
音無小鳥
「そういう事だってあるのよ?」
北沢志保
「…いいんですか。皆、そんな事するくらいならって、あんなに。明るく笑って終ろうって。」
音無小鳥
「どっちが正解とかじゃないもの、構わないわ。志保ちゃんの思った様にやりなさい。」
北沢志保
「私が、思うように……」
北沢志保
………
北沢志保
…やけに生々しい夢だった。まるで本当にあった事のような
北沢志保
「あ…そっか。」
北沢志保
実際に劇場は移転も取り壊しもされていない。だけど。
北沢志保
「…」
北沢志保
後悔だけはしないように。皆、さかんにそう言っている。まるで、なにかに取り憑かれたように。
北沢志保
だけど。
北沢志保
………
北沢志保
私たちの劇場が終わるまで、あとー
(台詞数: 36)