北沢志保
翌朝。今日も寒い。
北沢志保
あの子は朝早くから何処かに出かけていた。お腹が空いたら戻ってくるらしい。
北沢志保
その間に何か食べるものを用意しなければならないのだが、ここに来てしばらく経つ。
北沢志保
そう、もうあまり食料が残っていないのだ。こんなに長居するとは思わなかったし。
北沢志保
二人分も要るとは思わなかった。そろそろ買い足しに行かなければならない。
北沢志保
あの子が持っている食料はインスタント食品や非常食ばかり、成長期には毒だ。
北沢志保
……あれ。そもそも、何故私はここにいるんだろう。見たらすぐ帰るはずだったのに。
北沢志保
あ、そうか。あの子がいるからね。一人残してはおけない。
北沢志保
あの子の親がどういうつもりかは分からないが、絶対に家に戻さないと。
北沢志保
あの子にも事情があるみたいだし、平気だと言っているが。
北沢志保
独りの寂しさは、よく知っている。
北沢志保
そもそも独りが苦手だった私が、なぜ一人旅が好きになったしまったのだろうか。
北沢志保
あ、違う違う。今はそんな話じゃなかったわ。
北沢志保
二人分を用意するように気をつけながら、火をつけた。
北沢志保
そういえば、あの子は誰かを待っていると言っていた。
北沢志保
「調べて欲しいんだけど」
北沢志保
手は両方とも忙しいので、音声で端末を起動して、昨夜聞いたあの子の「友達」の出身地を言う。
北沢志保
「○○町 現在」
北沢志保
すぐに結果が出て、合成された音声が結果を伝える。
北沢志保
○○町は海に面した○○市でも最も人口の多い町で、住宅地が多く―――
北沢志保
しかし☓☓年に起こった大災害により、住民のほとんどが―――
北沢志保
……
北沢志保
……絶句。
北沢志保
何度も見てきたことであったし、知っている事であったが。
北沢志保
遠い国の、昔の話だったそれらのことは、身近になってしまった。
北沢志保
あの子の「友達」は必ずこない。もう来ることができない。あの子は必ず報われない。
北沢志保
……
北沢志保
とりあえず、あの子に知られないように。どうにかして、諦めさせないと。
北沢志保
その時。
北沢志保
にゃあ、と甲高い鳴き声が背後から。
大神環
……
北沢志保
「環!」
北沢志保
しまった、迂闊だった。私は自分の興味の為に、取り返しの無いことをしてしまった。
大神環
「しほ、いまの……」
北沢志保
「ち、ちがうの」
北沢志保
いいや、何も違わない。その合成音声が告げたことは、すべて真実で……
大神環
「それ……」
北沢志保
環は抱えていた小動物を足元に置いて、ゆっくりと近づいてきて。
北沢志保
「私、そんなつもりじゃ……」
北沢志保
端末のディスプレイに顔を近づけ、覗き込んだまま。しばらく黙って。
大神環
……
北沢志保
それから、ゆっくりとつぶやいた。
大神環
「イムホテップ 現在」
北沢志保
……
大神環
「あれ、しほのときみたいに答えてくれない。なんで?」
北沢志保
「それネットには繋がってないわよ。旅人用の地図みたいなやつだから」
北沢志保
「そもそも圏外だとおもうし、そもそもハムナプトラ観たならわかるでしょう?」
大神環
「しほ、大丈夫だよ。たまき」
北沢志保
「知ってるわよ」
北沢志保
独りぼっちの寂しさは。
(台詞数: 50)