矢吹可奈
「おいしょっ……と。あ、ありがとう」
北沢志保
同行人に手の手を引っ取って同じ足場に引き上げた。おそらくこれが最後の段差だ。
矢吹可奈
「え、何でわかるの?」
北沢志保
私は黙って、彼女の手を握っているのと反対側の手で穴の奥を照らした。
北沢志保
さっきまでのアスレチックが嘘のような、舗装された様に平坦な道が遠くまで続いている。
北沢志保
壁や天井も真っ直ぐな事から……
矢吹可奈
「自然の奇跡ってすごいね!」
北沢志保
……この穴が人為的に掘られたものであることがわかる。
矢吹可奈
「あ、そうだよね。それにしても……何でこんなの掘ったんだろう」
北沢志保
私の少ない知識で思い当たるのは、やはり地下資源をここから取り出していたか、
矢吹可奈
「きっと迷路大好きおじさんが居たんだよ!」
北沢志保
大規模なシェルターでも作ろうと思ったのか、どちらにせよ、持ち主も住人もいないようだ。
矢吹可奈
「っていうか。こんな歩きやすくするなら最初からそうすれば良かったのに!」
北沢志保
きっと私達が入って来たのは正規のルートでは無いのだろう。
矢吹可奈
「なら、帰りは楽に出られるね。」
北沢志保
だけど、これだけ広いと大変だ。目的地がどこにあるのか。
北沢志保
ヒントはほとんど無いが、彼女の性格を考えると……
矢吹可奈
「一番奥の一番すごいっぽいところに埋めようよ!」
北沢志保
まさか!それでは誰かがここに来て掘り出す事など不可能だ。いくらなんでもそんな事はしないはず
矢吹可奈
「よし!どっちが早くつけるか競争!」
北沢志保
とも言いきれない気がしてきた。走り出そうとする彼女を捕まえて大きなため息をついた。
北沢志保
足下を照らしながら歩いていく、時々ランプのようなものを見かけるが、
北沢志保
きっと全てその機能は失っているのだろう。灯りは完全に私の持っているライトだけだ。
矢吹可奈
「なんか、暗いのにも慣れてきたね」
北沢志保
まあ、私はもともと暗闇など怖くないが。それでも一人でないのは良いかもしれない。
北沢志保
何かと面倒ではあるが、その代わり、まあ。
矢吹可奈
「……どうしたの?」
北沢志保
暇ではない。
矢吹可奈
「えへへ」
北沢志保
長い廊下を歩きながら、時々年相応に甘えてくる彼女の相手をしたり。
北沢志保
帰りにも同じ距離を歩かなければならない事にうんざりしながら、そこにたどり着いた。
矢吹可奈
「あ、行き止まり、かな。なんか達成感無いね」
北沢志保
私でも行き止まりを華美にしたりはしないし、きっとこんな物だろう。さて。
矢吹可奈
「じゃあ、ここにしよっか」
北沢志保
荷物を置いて折りたたみのスコップを取り出した。どこでもスコップは万能である。
矢吹可奈
「あ、私もやる」
北沢志保
勿論こんな事を手伝わせるわけにはいけないので、一人で必死に土を掘った。
北沢志保
思ったほど掘るのに骨は折れず、やはりここが正解だったと確信した。
北沢志保
そして、それほど深く掘らないうちに。
矢吹可奈
「じゃーん!ちょっと高いお菓子の箱です」
北沢志保
私の知らないメーカーだ。
矢吹可奈
「ここに手紙を入れて埋めます」
北沢志保
手紙、一体誰に宛てた物なのだろう。いや、そんな物は帰ってから聞けばいいのだが。
矢吹可奈
「じゃあ、埋めるのは手伝うね」
北沢志保
元あった様に土を収めて、疲れながらも早くここを出ようと決めた。もう用は無い。
矢吹可奈
「え、誰宛ての手紙かって?秘密!」
北沢志保
……途端、何故か気が変わった私は、今掘り出したばかりのそれを読んだ。
北沢志保
すぐに読み終わると、また何故か気が変わり、しばらくここで休む事にした。
矢吹可奈
「届くといいなあ」
北沢志保
思いは、確かに受け取った。
(台詞数: 50)