北沢志保
…満員電車での移動中、お尻の辺りを撫でられるような感触があった
北沢志保
偶然手が触れたと言うには明らかに不自然な動き、しかし私はまだ動かない…
北沢志保
二度目の撫でられる感触…まだ動かない…そして、三度目に触れられた瞬間にその手を掴んだ。
北沢志保
二度までなら偶然もありえるが、三度も偶然が重なる事はありえない…ここまですれば冤罪も無い…
北沢志保
私は掴んだ手を高く上げ、大声でこの人痴漢です!と叫び…それを見た。
北沢志保
先端は手も指も無く、それどころか骨も無く、掴んだ手にはぬめぬめとした粘液が付着している…
北沢志保
端的に言うと、私は触手を掴んでいた。そう表現するしか無かった。
北沢志保
私は触手を視線で辿り、痴漢の姿を見る…
北沢志保
私の胸くらいの背丈がある昔の漫画のようなタコ型の宇宙人…そんな生物が本体のようだ
北沢志保
私も周りもなんでこんな明らかな人外の存在に気づかなかったんだろう…
北沢志保
力はそんなに強くないらしく、私の手を離そうともがいているが全く振り切れる気配は無い
北沢志保
そうこうしているうちに電車が止まったので触手を連れて駅に降りる、触手に抵抗する気配は無い
北沢志保
そして駅員に声をかけたのだが、謎の生物に痴漢されたと言って信じてもらえるのだろうか…
北沢志保
と、心配していたがあっさりと話しが進んで駅長室へ案内される
北沢志保
…私が知らないだけで触手が電車に乗る事は普通なのだろうか、他の客も反応してなかったし…
北沢志保
いままでずっと無言だった触手だが、駅員に話を聞かれると冤罪だと急に主張しだした
北沢志保
あの触手、しゃべれたんだ…
北沢志保
とは言え痴漢に容赦をしてやる程私は優しくない、私は後ろを振り向いてスカートを…
北沢志保
正確にはスカートにべっとりとついた粘液を駅員に見せる、物的証拠としてはこれで十分だろう…
北沢志保
…帰ったらこのスカート捨てよう。
北沢志保
そう思っていると観念した触手が項垂れて生徒手帳と携帯電話を駅員に渡している…
北沢志保
横目で文字を追うと中学三年生らしい、触手が人間と一緒に中学に通っているの…?
北沢志保
困惑しているうちに警察が来て触手を連行する、触手にも法律は適用されるらしい。
北沢志保
私はその場で事情聴取を受けただけで解放された。大変な目に遭いましたねと言われたが…
北沢志保
正直、辛い目にあったと言うよりも珍しい事に出くわしたと言う気分の方が強くて実感が湧かない…
北沢志保
一応、プロデューサーにその事を報告だけしてこの件は終わりと思っていたのだが…
北沢志保
翌日、事務所に私と同じくらいの背丈を持つ触手が訪れて来た、私に話があるらしい。
北沢志保
安全のため、プロデューサーと共に話を聞く事にする、どうやら昨日の触手の母親らしい
北沢志保
…話を要約すると慰謝料を払うから痴漢の事実を無かった事にしてほしいと言う事だ。
北沢志保
曰く優秀な子で高校の推薦入学も決まっているんだとか…それを取り消されたく無いらしい
北沢志保
話を聞いていたプロデューサーは私が良いのならこの話を受けた方が良いだろうと言った。
北沢志保
痴漢された事実はアイドルとしてマイナスイメージになるからこの申し出はむしろありがたいとの事
北沢志保
言いたい事はあるが、触手相手に毅然と交渉しているPと言う図のシュールさに何も言えなかった…
北沢志保
昨日からずっと思っていたけど、触手の存在をおかしいと思う私の方がおかしいのだろうか…?
北沢志保
…結局この話を渋々了承した私に触手は慰謝料とは別のお詫びだと大きな箱をくれた。
北沢志保
中身は新鮮なタコの足…共食い?まさか自分の触手を切った物…?そう思ったが聞く勇気は無かった
北沢志保
考えた末、タコの足は杏奈と奈緒に頼んでたこ焼きにしてみんなに振る舞う事にした。
北沢志保
みんなはおいしいおいしいと食べていたが、私はどうしても食べる気になれなかった…
北沢志保
嫌悪感と言うよりも、どうしても社会生活を送るあの触手親子のイメージがダブってしまうからだ…
北沢志保
高校に上がったら、触手が同級生になる事もあるのだろうか…そう思いながらたこ焼きを眺めていた
(台詞数: 40)