レディ・ミーツ・ガール
BGM
piece of cake
脚本家
ウツボ
投稿日時
2016-09-15 23:57:02

脚本家コメント
フッと沸いた設定を書いてみました。最初に思い付いたのは「ガール」ではなく「ボーイ」でしたが、ひなたっぽかったので「ガール」になりました。
当然続くわけがない。
そして前フリが長い。

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北沢志保
「…迷惑はかけないと思いますが、宜しくお願いします。あ、北沢志保です」
北沢志保
…なんて、小生意気な私がアイドルとしてデビューしたのが、もう十数年も前になる。
北沢志保
私、北沢志保は今年で30歳になった。今はアイドルは辞めて、とある会社に勤める社会人だ。
北沢志保
そして今日は、会社で私が担当するビジネスの、大きな山場を迎える日だった。
北沢志保
緊張は顔には出さず、いつも通り出勤をして、オフィスビルの受付で出社の手続きをした。
北沢志保
役職と名前を伝え、今日のビジネスの人員も受付で確認する…想定より、少し多いわね。
北沢志保
『数に怯むな。そして周りを頼る事も、自分を通す事も恐れるな。志保は一人じゃないんだ』
北沢志保
…ふと、そんな言葉が頭をよぎる。これは、アイドルデビューの時に私を担当してくれた
北沢志保
プロデューサーの言葉だった。私は…今だから思えるが、彼の事を心から尊敬していた。
北沢志保
14歳の頃の生意気で大人ぶった私に、自分は一人では大した事は出来ないと教えてくれたのも彼。
北沢志保
仲間と、絆と、夢を追う事と…家族の大切さを教えてくれたのも、彼だった。
北沢志保
彼の元にいる時の北沢志保が、一番輝いていたのだと、当時の彼と同世代になった今でもそう思う。
北沢志保
それに、当時は尊敬以上の思いがあった事も、今は否定しない……本当、生意気な子供ね。
北沢志保
だけど、彼のプロデュースでのアイドル生活は二年で終わりを迎える…彼はとある事情で仕事を辞め
北沢志保
地元の北海道に帰ってしまった。辞める事実と理由を聞いた私は…今考えても、人生で一番泣いた。
北沢志保
その後もアイドルは続けていたが…私は20歳になる頃に辞めていた。彼がいなくても続ける自信は
北沢志保
あったが…その頃には、アイドルよりやりたい事が出来ていて、その勉強をしたかったからだ。
北沢志保
「……かしこまりました。それでは、いってらっしゃいませ。北沢プロデューサー」
北沢志保
と、受付の女性から言われた私は、会釈して歩みを進める。その時に鞄から出した…
北沢志保
『961プロダクションアイドル事業部 第二課チーフプロデューサー 北沢志保』
北沢志保
という社員証を首からかける…私は、彼と同じ道を歩んでいるのだ。それも、961プロで。
北沢志保
アイドルとしての輝きを一時でも感じた私は、その輝きを次世代の子達に見せたくなったのだ。
北沢志保
というのは表向きで…まぁ事実ではあるのだが、彼への憧れの方が強いような気もする。
北沢志保
20歳から業界を学び、彼から教わった大切なモノを理解した上で……私は961プロを選んだ。
北沢志保
…ちなみに、今の961は十数年前に比べるとかなりクリーンな企業となっている。
北沢志保
当時の経営者が退任した事が大きいだろう。ただ、合理性を追求する方針は変わっていない。
北沢志保
そこが、私の考えに合っていると思った。そして入社して数年経った今、この地位を掴んだのだ。
北沢志保
そして今日のビジネスとは、私が統括者である『次世代アイドルオーディション』だ。
北沢志保
オーディションから全統括を任せられたのは初めてで…緊張はあるが、やりがいも感じている。
北沢志保
そんな緊張も闘志も顔には出さず、私は会場へと向かう……途中で、見慣れない少女を見つけた。
北沢志保
エントランスで右往左往している。明らかに手で刺繍を施した服を着た、素朴な少女だった。
北沢志保
これは私じゃなくても、彼女がここにいる理由はわかる…私は社員証を鞄に戻し、声をかけた。
北沢志保
「どうかなさいましたか?」
木下ひなた
「え?あの、えっと…あたし、場違いと思われるかもだけど、オーディションに……」
北沢志保
「弊社のオーディションでしたら、7階の会議室にて行います」
北沢志保
「南側に見えます青いドアのエレベーター。あちらに乗りますと、7階に着いてすぐ見えますよ」
木下ひなた
「青いエレベーター…!あたし、エレベーターみっつもよっつもあって、どれに乗ればいいのか」
木下ひなた
「わかんなくって…ありがとうございます。おねえさん、親切なんだねぇ」
北沢志保
「いえ、当たり前の事です。それでは、オーディション頑張ってください」
北沢志保
と、淡々と答えた私は彼女の顔を見ずに歩みを進め、エスカレーターで7階まで向かった。
北沢志保
「あの子…原石といえば原石だけど、ウチのカラーに合うかしら。まぁ、話を聞いてみないとね」
北沢志保
その後オーディションが始まり…一人ずつ話を聞いていき、その彼女が入ってきた。
木下ひなた
「失礼します…ありゃ、さっきのおねえさん!」
北沢志保
「先程はどうも。えっと、名前は木下……木下ひなたさん」
北沢志保
「木下」という苗字を見る度に反応する癖をなんとかしたい…と思った矢先、出身地に目が行った。
北沢志保
「木下さん…北海道出身、なんですか?」
木下ひなた
「はい、北海道から来ました。木下ひなたです。おねえさんが、北沢志保さんだったんだねぇ」
木下ひなた
「えへへ、おとうさんから聞いてた通りだねぇ。優しい人で良かったよぉ」
北沢志保
……その少女の太陽のような笑顔は、大人なのにサプライズが好きだった私の尊敬する彼に…
北沢志保
一回りも歳の離れた、私の初恋の人に…ちょっと似ていた。

(台詞数: 50)