北沢志保
テレビや音楽に支配されない時間が愛おしい。
北沢志保
たとえば休日の早朝である今。
北沢志保
乾いた風は髪を撫で、水と緑の澄んだ空気の中へと溶けていく。
北沢志保
私はといえば、縁側に腰掛けてお茶で一服。
北沢志保
やけに老け込んだ自分の所作にクスリと笑う。
北沢志保
「……ふぅ」
北沢志保
どうやら私の疲れは休日に集中するらしい。
北沢志保
ついさっき起きたばかりなのに、またうつらうつらと舟を漕ぎ始めている。
北沢志保
そんな時、私の隣には決まって丁度いい高さの枕がある。
北沢志保
特に求めてはいなかったけど、いつの間にかそこにあったもの。
北沢志保
今では掛け替えのない宝物だ。
北沢志保
……眠りの海原は思っていたより雄大で、随分な長旅になりそうだ。
北沢志保
コテン、と座ったまま枕に頭を預けた。
北沢志保
普段の私ならこんな隙は見せないし、見せたくもない。
北沢志保
けれど今は……。
北沢志保
信頼している。
北沢志保
「……ごめんなさい」
北沢志保
一応の"許可"と"謝罪"の挨拶。親しき仲にも礼儀ありと云うし。
北沢志保
いや、内心はまだ恐れているのかもしれない。
北沢志保
もしも押し返されたら。拒絶されたら。
北沢志保
湖底に沈んだ残滓は石を投げれば一気に浮かび上がる。
北沢志保
期待してはいけない。そう思い知らされた日々の連続。
北沢志保
その連続した経験が、不安という形で心に堆積している。
北沢志保
悶々。
北沢志保
ちょっと軽率だったのかもしれない。
北沢志保
ネガティブ……。やっぱり疲れているのだろうか、ため息が漏れる。
北沢志保
「……!」
北沢志保
髪をくしゃくしゃにされた。
北沢志保
「な、な……」
北沢志保
ぐらぐら揺れる視界。どうやら撫でられたらしい。
北沢志保
……。
北沢志保
本当、不器用。
北沢志保
だからかもしれない。
北沢志保
波長が合うのだろう。似た者同士の"私たち"は。
北沢志保
互いに互いを求めてはいなかった。
北沢志保
いつの間にか並んでいた。
北沢志保
いつの間にか一緒だった。
北沢志保
いつの間にか……同じ部屋で過ごしていた。
北沢志保
言葉少ない朝の縁側。
北沢志保
緑のカーテンの向こうでは人々の日常が広がり始めている。
北沢志保
私はまた眠りに就いた。
北沢志保
もたれ掛かって、今度は心まで預けた。
北沢志保
夢に行っても離すつもりはない。
北沢志保
私の、私だけの、掛け替えのない宝物だから。
(台詞数: 44)