北沢志保
男は騎士に憧れた
北沢志保
窮地のお姫様の下に駆けつけては守り抜く…
北沢志保
御伽噺に必ず登場するような…
北沢志保
絵本になるような、誰からも愛される本当の英雄に…
北沢志保
男は、幼い頃から夢見たそんな騎士に一度はなれた
北沢志保
騎士とはいっても、本物の騎士とは程遠いものだったけれど…
北沢志保
男はやっと憧れの騎士、誉を手に入れた
北沢志保
勿論、御伽噺のようなお姫様もいなければ…愛してくれる民もいない
北沢志保
それどころか生涯の忠誠を誓う代わりに、得られるものはなにもなかった
北沢志保
得たものと言えば自身に付き纏う孤独だろうか…
北沢志保
男は孤独と戦った
北沢志保
謗られようと、傷つけられようよ、決して屈することもなく
北沢志保
幼いころから抱えたその志だけを握りしめて、泥まみれになりながらも前を向き続けた
北沢志保
男は決して民に愛されることはなかったが…
北沢志保
生涯愛すものと出会い、恋に落ち、そして家族を持った
北沢志保
それが間違いだったのかもしれない
北沢志保
許されざる禁忌を犯してしまったのかもしれない
北沢志保
この国を守る騎士は孤独でなければならなかったのに…
北沢志保
それを破ってしまったのだから…
北沢志保
無意識の内に自らがたてた誓約を破ってしまったのだ
北沢志保
そんな男に待っていた二者択一の罰
北沢志保
男は家族を失うか、とある罪を背負うかを迫られた
北沢志保
男が選んだのは後者だった
北沢志保
男はそれでも騎士であろうとしたのだ
北沢志保
その先にどんな悲劇が待っていようと…
北沢志保
国を守る誉れ高き騎士
北沢志保
かけがえのないたった一つの家族を守る騎士として…
北沢志保
逝くことを選らんだのでした…
北沢志保
たとえそれが不名誉を被ろうる結果になったとしても…
北沢志保
家族を守ることこそが…
北沢志保
名誉の死だと信じていた
北沢志保
処刑の前…
北沢志保
もう最期だからと、男には家族と面会する時間が与えられた
北沢志保
今生の別れに、家族の顔を頭の中に、記憶の中に刻みたかったのだろう
北沢志保
男に面会にきたのは、妻一人に、娘一人に…
北沢志保
まだ幼い息子が一人、母の胸に抱きかかえられていた
北沢志保
男の前にやってきた娘の顔は今にも泣きだしそうだった
北沢志保
「ねぇ、おとうさんはわるいひとなの?」
北沢志保
…
北沢志保
そう問いかける娘に男は何も答えてやることが出来ない
北沢志保
首を横に振って否定してやることすらもできないのだ…
北沢志保
それがその男にとっての正義であり、それが男にとっての騎士道であり、唯一残された道なのだ
北沢志保
「ごめんな、こんな情けない父で、最後になにかできることはないか?」
北沢志保
そう愛娘に問いかける男に、娘は顔を泣き腫らしていた
北沢志保
「じゃあ…生きて」
北沢志保
寂しそうなその一言に、男は随分前に失っていたモノを思い出させられていた
北沢志保
幼い頃、憧れていた騎士像とは、男は相当かけ離れてしまったのだと、気付かされた…
北沢志保
何故なら、目の前で泣いている娘(おひめさま)の涙すらも拭ってやれないのだから…
北沢志保
「今夜は小さかったわたしになろう菖蒲色の露を飲み、きみを愛す」
北沢志保
娘にそう告げると、騎士失格のその男は毒入りの瓶を一気に飲み干した…
(台詞数: 50)