北沢志保
幼い頃、心に穴があいた。
北沢志保
何が起こったのか分からなくて、そういう風にしか言えなかった。
北沢志保
勿論それはこの世に普通に起こり得る事だったけど、それは今の話。
北沢志保
その時の私の中では未知だった。この世界には無かったという事だ。
北沢志保
ただ、だからこそそんな事が起こっても悲しくは無かった。悲しむ事だと知らなかった。
北沢志保
知らなければ分からない、これはそう言う話。
北沢志保
そんな事があった翌日から、私の生活は変わった。
北沢志保
いや、もしかしたら何も変わっていないのかもしれないけど、それも今の話。
北沢志保
その時の私の中では変わっていたのだから、この世界が変わったという事。
北沢志保
心に空いた穴は常に私に影を落とし、何をしている時でも常に付き纏っていた。
北沢志保
人の言っている事がよく分かるようになった代わりに、言いたいことが分からなくなった。
北沢志保
やっている事が分かるようになった代わりに、やりたい事が分からなくなった。
北沢志保
ずっと自分が自分でない気がして、本当の意識は遙か上の方にあるように感じた。
北沢志保
以前は確かあったはずの好きな事が、分からなくなっていた。
北沢志保
何が好きだったのか、分からなくなっていた。
北沢志保
その時は人生が少なくて過去をあまり見られなかったから、ずっとこうだった気でいた。
北沢志保
もしかしたら、それがそのまま育ったのが私なのかもしれない。
北沢志保
と、ここまで話たところで、相手の表情に気づいた。
北沢志保
しまった。そう言う話をするつもりじゃなかったのに。
北沢志保
これでは私が暗い話をしたみたいではないか。いや、やっぱりそんなつもりは無いのに。
北沢志保
まあ、包み隠さず真剣に話すとこんな感じになってしまうのは普通に私の性格だし。
北沢志保
そもそも、相手が相手だから包み隠さず話せるわけだし、そう伝え
北沢志保
そもそも、相手が相手だから包み隠さず話せるわけだし、そう伝え……
北沢志保
……
北沢志保
伝えるのはまた次の機会にするとして、続きを話さなければ。
北沢志保
流石にここで終わるのは後味が悪い。
北沢志保
さて、どこまで話たっけ。というかどこまで話すつもりだったっけ。
北沢志保
とあるきっかけで、その頃よりさらに幼い時に好きだった物が家の奥から出てきた。
北沢志保
それは……その、絵本なのだけど。
北沢志保
とにかく、それの事ははっきり覚えていたので、一人で読んでみたのだ。
北沢志保
それは勿論懐かしくて、でも何故か新しくて。
北沢志保
今思えば、一人で読むのがはじめてだったからかもしれない。その頃には字が読めたから。
北沢志保
それで、読んでいくうちに、自分に心があった事を、何というか意識しだして。
北沢志保
上手く言えないけど、なんか、いっぱいになってしまった。
北沢志保
同時に、昔それを代わりに読んでくれていた人がどれだけ読むの下手だったかも分かった。
北沢志保
それから、その時の気持ちの正体を知るために、色々読むようになったというわけ。
北沢志保
……
北沢志保
勿論、この時の感情はポジティブな物で、それを追いかけるための行動なのだけど。
北沢志保
実はこの時、もう一つ生まれた感情がある。負の感情と言うわけでは無いけど。
北沢志保
そっちの正体はその時は分からず、ずっと悶々として何かを探していた。
北沢志保
そう、知らなければ分からないのだ。良くも悪くも。
北沢志保
……その感情の正体と、その悶々を晴らす方法を知るのは、しばらく後の事だ。
北沢志保
さて。
北沢志保
それからも色々あって、色々動いて、その結果ここでこんな話をしている。
北沢志保
勿論聞かれたから話してるのだけど、この話にはたして意味があるのかは分からない。
北沢志保
こんな事を他の人に話したことがないから、知らないから分からない。
北沢志保
ただ、私はもう知っている。結局、しなければ分からないし、言わなければ伝わらない。
北沢志保
だから、話した。今話してる相手に、私を知って、分かって欲しいのかもしれない。
北沢志保
同じ理由で、私が今話している相手に抱いている感情も、
北沢志保
きっとしばらく、伝わることは無い。
(台詞数: 50)