二つの車輪
BGM
恋花
脚本家
ちゃん@春の日
投稿日時
2016-05-13 21:57:33

脚本家コメント
回れ
実はmayoiさんリスペクト作品なのですが、語彙不足感が否めません
にわかミリマス文学作品…?

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矢吹可奈
「最期にまた桜が見たいの」
北沢志保
その一言が、寂びた私を動かした。
北沢志保
私の代わりに悲鳴をあげる二つの車輪、振り返ると、アスファルトに刻まれた錆びた轍が目に入る。
北沢志保
まるで二人で歩んできた軌跡のように錯覚すらしてしまう。
北沢志保
ぼやけた視界の中に裏表のない彼女の微笑みが映りこむ。
北沢志保
たった一度のその微笑みが、今の私には眩しすぎて。
北沢志保
その光から逃避行するみたいに、私は視線を前へと逸らす。
北沢志保
けれど皮肉な事に、今一番現実逃避をしたいのは後部座席の少女の方だ。
北沢志保
彼女が望んで始まった、二人だけの逃避行劇。
北沢志保
私はペダルを漕ぐ役で、彼女は私に寄り添う役。
北沢志保
私の身体にずしりと乗っかるその重さも、背中から伝わる彼女の温もりも…
北沢志保
私だけに与えられた特権だ。
北沢志保
車輪は音を立てて回り、私の心臓の速さに共鳴していた。
北沢志保
終点の見えぬこの坂は、自分自身との勝負でもあった。
北沢志保
一漕ぎ一漕ぎする度に伝えたい想いが溢れそうになる。
北沢志保
私は彼女に好意を抱いている。
北沢志保
その事実を敢えて口にする事がなかったのは、このまま墓場まで持っていこうと考えていたからだ
北沢志保
けど、もう駄目だろう。
北沢志保
心に触れる彼女の温もりが、直ぐにその決意を曲げたのは言うまでもない。
矢吹可奈
「だめっ!」
北沢志保
声を掛けようとしたその刹那、寄り添う彼女からそう切り出した。
矢吹可奈
「私の事好きって言っちゃだめ」
北沢志保
その言葉は、自転車を漕ぐその足を止めさせるには十分過ぎるものだった。
北沢志保
背中に乗っている彼女の握りこぶしが震えていた。
矢吹可奈
「私の恋は叶っちゃいけないの。片思いのまま終わらなくちゃいけないの」
矢吹可奈
「だって、もし両想いになっちゃったら…お別れ、できないよ…」
矢吹可奈
「だから一方通行になっちゃうかもしれないけれど…」
矢吹可奈
「この坂を上り切った先にあるあの桜みたいに、私はもうすぐ散っちゃうから」
矢吹可奈
「だから、今だけは、私の満開の想い伝えさせて欲しいな」
矢吹可奈
「大好きです」
矢吹可奈
「ずっと昔から好きでした」
北沢志保
涙を滲ませる彼女の笑顔を目の当たりにして、私の視界は滲んでいた。
北沢志保
私はすぐさまその瞳を拭うと、告げられた言葉を受け止める。
北沢志保
そして、何も言わずに頷いた。
北沢志保
朝焼けに染まる夜明け空から一筋の陽光が私の望む坂へと射し込む。
北沢志保
私は錆びた轍をあそこまで刻むことができるだろうか…
北沢志保
車輪は再び回りはじめる。

(台詞数: 37)