北沢志保
"貴方"が私のもとからいなくなった日。
北沢志保
私達の家から去った日。
北沢志保
洋服箪笥にいつも綺麗に畳まれていた大人物男性の服は失くなっていて…
北沢志保
全てが空になっていた。
北沢志保
空になった空間は虚しさに埋められてて…
北沢志保
私の心もそんな感じで…
北沢志保
悲しい気持ちでいっぱいになった。
北沢志保
でもそんなことも言ってられなかった。
北沢志保
顔をあげれば、弟とお母さんが悲しみに打ちひしがれていた。
北沢志保
だから、私だけでも強くならなくちゃって思った。
北沢志保
貴方がくれた忘れ形見。
北沢志保
黒猫のストラップ、ぎゅっと両手で握りしめて
北沢志保
お願いしたんだ。
北沢志保
"強くなりたい"って
北沢志保
その日から…
北沢志保
私は上手く笑えなくなった。
北沢志保
その日から…
北沢志保
少女は一足先に"大人"になった。
北沢志保
あれから月日は流れて…
北沢志保
夜遅く、私は疲れた身体を引き摺りながら家路を辿る。
北沢志保
たとえ誰かに後ろ指を指されても、強い意志は揺るがない。
北沢志保
私は不器用ながらも強くなった。
北沢志保
玄関を開けると、いつもの様に中は暗い。
北沢志保
弟の寝息を聞きながら、なるべく音を立てないようにして…
北沢志保
ふと、あの洋服箪笥が目に入る。
北沢志保
柄にもなく、ふと、久しぶりに開けてみようと思った。
北沢志保
きっと、あの日のまま、虚しさで埋められているのだろう。
北沢志保
キィ…
北沢志保
予想を反し、中には埃を被った一冊のアルバム。
北沢志保
昔、絵本で読んだ様な、魔法の書物みたいにポツリと置いてある。
北沢志保
私は気になって、そのアルバムを手に取って開いてみた。
北沢志保
なんとなく気付いてたけど、中には思い出が詰まっていた。
北沢志保
まだ、私達が"家族"だった頃の写真。
北沢志保
その写真の中で私は、笑っていた。
北沢志保
「私、こんなにも、無邪気に笑えたんだ…ね」
北沢志保
その時、思い出が、私の中にある想いが溢れ出て…
北沢志保
涙が止まらなくなった。
北沢志保
「どうしたら…グス…また…笑えるのかな」
北沢志保
「私…わた…し…不器用だよね…グス」
北沢志保
__「志保」
北沢志保
泣き顔のまま、振り返ると、そこには優しい顔をしている母がいた。
北沢志保
__「ごめんね、お母さん気付いてやれなくて」
北沢志保
母はそう言うと、私を受け入れる様に、受け止める様に抱擁をする。
北沢志保
__「私が弱いから、みっともないから、志保に無理させちゃったね」
北沢志保
__「昔はあんなによく笑ってくれたのに…」
北沢志保
__「お母さんのせいで、志保の事、無理矢理大人にしちゃったよね…」
北沢志保
__「もう、無理しなくていいんだよ、志保はお母さんの大事な娘だよ、ね?」
北沢志保
私は応える様に、両腕で、ギュっとお母さんの身体を抱き締めた。
北沢志保
あの日の黒猫のストラップのように…
北沢志保
私はその日、"少女"に戻った。
(台詞数: 50)