久遠の色彩
BGM
Decided
脚本家
mayoi
投稿日時
2015-12-07 00:49:34

脚本家コメント
だからこそ知りたかった。
奪わずとも得られる幸福とやらを。
彼女ならそれを知っている気がしたのだ。
気が早すぎるクリスマス作品。
ガシャ更新する運営が悪い。

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矢吹可奈
「えへへ……助かりました」
北沢志保
それにしても驚いた。
北沢志保
深夜、月の下で鈍く光るコップと錠剤とに嫌気が差し、窓から抜け出した。
北沢志保
ただ漠然と目指した海には、出来損ないのボートのようなものが浮かんでいた。
北沢志保
うら若きサンタが乗った、ソリだった。
矢吹可奈
「トナカイだけ先に帰っちゃったんだよね」
北沢志保
「躾がなってないんじゃない」
北沢志保
サンタの実在だけでなく、間の抜けようにも驚いた。だが不思議と、嫌いにはなれない。
北沢志保
「そもそも何故プレゼントを?」
矢吹可奈
「子どもたちが喜ぶんだって」
北沢志保
「それが何の得に?」
北沢志保
「……ごめんなさい。ただ、貴女の幸せって何だろうと思って」
矢吹可奈
「みんなが幸せなら、それが私の幸せかな〜♪」
北沢志保
この人は純粋だ。それ故に些事に囚われず、己の信ずるところを貫いている。
北沢志保
ときどき思うのだ。
北沢志保
この国の民はとうに食い散らした幸福の残滓を奪い合っているに過ぎない、と。
北沢志保
平均月収500ドル。その程度の経済規模に達したとき、国は最も勢いを持つらしい。
北沢志保
現在で言えばエジプト、タイなどが該当する。少し上に中国、下にはベトナム。
北沢志保
日本はどうだろう。最も勢いのあった時代とは何時か。
北沢志保
その急坂を駆け降りたとき、我々は自らの速度を自覚していただろうか。
矢吹可奈
「サンタはね、溶けるんだ」
北沢志保
発言の真意を量り損ねた。
矢吹可奈
「疑問に思ったことはない? どうしてクリスマスにしかサンタさんに会えないのか」
矢吹可奈
「サンタはイヴの夜にしか存在しないの。朝には降り積もる雪になって、それでおしまい」
北沢志保
「……貴女、死ぬつもり?」
矢吹可奈
「そんな詩人さんじゃないよ」
北沢志保
冗談に思われたらしい。彼女はただ、朗らかに笑う。
矢吹可奈
「ちょっと眠るだけ。来年には次のサンタクロースが目覚めるから」
北沢志保
「でもその時には姿も中身も、全くの別人なんでしょう?」
矢吹可奈
「……よく分かったね」
北沢志保
共通点がないのだ。目の前の彼女と、伝承の中のサンタとでは。
北沢志保
夜が明ければ彼女とは、二度と会えないのだろう。
矢吹可奈
「ねぇ、プレゼントあげようか」
矢吹可奈
「ホントは12歳までなんだけど、嫌なとこ見られちゃったし」
北沢志保
口封じ、か。怒りがこみ上げる。
北沢志保
「この歳でクリスマスプレゼントなんて勘弁して」
北沢志保
そんなものは願い下げだ。夜が明けたら弟に言いふらしてやる。
北沢志保
サンタの実在。ドジ加減。愚直さ。すべてこの世界に刻みつけてやる。それが嫌だと言うのなら。
北沢志保
「……明日、改めて貰うわ」
北沢志保
彼女は何かを言いかけ、ためらい、そして諦めたように微笑んだ。
矢吹可奈
「うん。そうだね。また明日だね」
北沢志保
夜の闇が溶け始めた。胸に手を添えた彼女が高音を張る。ただ其処に在る、天に向かって。
北沢志保
私も合わせて歌った。これが最後だと分かっていた。
北沢志保
浸透する歌声。潮騒のアカンパニメント。
北沢志保
その声は雪となり、大地を白く、冷たく、染めていく。
北沢志保
それでも歌い続けたいと願う。
北沢志保
これから先、彼女を思い出す度に、こんな世界でも生きていこうと思えるから。
北沢志保
曙光は空の藍を奪い、やがて西方へと過ぎ去る。
北沢志保
そうして色彩は私たちの意思を超越してうねり、涯際なく、久遠を刻みゆくのだ。
北沢志保
目を覚ます街に私は祝福を捧げ、背を向けた。

(台詞数: 50)