北沢志保
何日かぶりに着た制服は少し新鮮に感じる。
北沢志保
「悪くないわね」
北沢志保
時間はお日様も顔を出さない夜と朝の境目。
北沢志保
結局、今日も眠れなかった。
北沢志保
最近は特に目まぐるしかったからだろうか、目を瞑ると色々な思考がぐるぐる交錯する。
北沢志保
というわけで雑念を吹き飛ばすに最適かつ手軽な手段として、私は珈琲を飲むという選択をした。
北沢志保
ついでに制服を着れば効力倍増。上手く淹れられた気がする。
北沢志保
「……はぁ」
北沢志保
心配で溜息が漏れる。
北沢志保
だが同時に高揚もしていた。
北沢志保
水瀬の代表が提示した条件――実は達成が出来るのだ。
北沢志保
条件は『1度だけ、ここが客で賑わう様を見せる。』
北沢志保
確かに、お店を見ず知らずの人で埋めるのは少々骨が折れるだろう。
北沢志保
街からはかなり離れていて、付近はまともに整備すらされていない獣道――
北沢志保
宣伝して呼び込もうにも、わざわざ足を運ぶ物好きはそういないだろう。
北沢志保
況して必然的に複数人、更には賑やかを見せろ、となると客足も途絶えさせてはならない。
北沢志保
けれど――もし、1度に沢山のお客を呼び込めたなら?
北沢志保
その人たちが全て顔見知りであったなら? ……活路はある。
北沢志保
というのもこの条件……何故か、お客に関して何も限定されていないのだ。
北沢志保
言うまでもない事なのか、わざとなのか。
北沢志保
まあ、ともかく友人、或いは家族、要は「お客」であればいい……はず。
北沢志保
詭弁かもしれないがやるしかないのだ。
北沢志保
「……」
北沢志保
ぐるりと店内を見廻す。
北沢志保
お店には、一般的な学校1クラス分より少し多いくらいの人数が座れる席がある。
北沢志保
いくら顔見知りだけとはいえ、私にこれだけの人を集めろというのは至難の業。
北沢志保
前にも言ったと思うが、私の交流関係は狭すぎると言っても過言ではないのだ。
北沢志保
連絡が取れるのは可奈と、もう1人。
北沢志保
しかし、可奈――彼女なら持ち前の明るさと愛くるしさを駆使してやってのけると信じている。
北沢志保
本人も俄然やる気を見せていた。あの子はやる時はやるのだ。
北沢志保
もう1人、饂飩好きな子とも連絡は取れたけど……どうだろう。彼女は真面目だから。
北沢志保
まあ、それは置いておくとして――
北沢志保
「もしかして、伊織さんも友達……」
北沢志保
いや、やめておくか。
北沢志保
「さて」
北沢志保
ぼやぼやしてもいられない。私にもやるべき事がある。
北沢志保
「50人……くらいか」
北沢志保
「まずは仕入れと……当日の……」
北沢志保
「その前にメニューの構成も考えないといけないか」
北沢志保
「珈琲は当然として、なるべく時間を要さないデザート系を……」
北沢志保
「?」
北沢志保
裏の戸口を引っ掻く音が聞こえる。
北沢志保
「ふふ、そうね。ネコさんも数に入れないとね」
北沢志保
扉を開け、猫用フードをお皿に入れてぶつぶつ。
北沢志保
「……そうか、お菓子って手もあるわね」
北沢志保
「……お店というよりパーティの準備みたい」
北沢志保
「ネコさん、あなたにも当日は手伝ってもらうから――しっかり食べて頂戴ね」
北沢志保
特製・高級山盛りキャットフードが完成した!
北沢志保
いや、していた。
北沢志保
後ろから視線で怒られた気がした。
(台詞数: 50)