distinct
BGM
恋花
脚本家
mayoi
投稿日時
2015-10-27 23:06:06

脚本家コメント
彼女は口を閉ざした。語られることを拒否した。
だから物語はそこで終わる、はずだった。
手元に読む本がないなら自分で書けばいいという発想。すごく頭わるい。

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北沢志保
雨が降り始めた。
北沢志保
大した雨量ではないがせっかく持っているからと思い、傘を差す。
北沢志保
そうしてから私は雨に濡れたかったのだと気付いた。
北沢志保
路駐の自転車がアスファルトの濡れを妨げ、白く染めている。
北沢志保
その乾きが浮かび上がる影のようで、私の奥にねっとりとした引力を残す。
北沢志保
車道を白い猫が横切っている。足の運びが不自然だが外傷はない。
北沢志保
不自然さを抱えながらも猫は着実に進んでいく。
北沢志保
渡り終える猫を急かすように、一対のヘッドライトが駆けていった。
北沢志保
前方をぼんやりと眺める。人がいるな、と思った。
北沢志保
傘を差さず、わずかに俯きながら歩いている。大きく膨らんだ荷物が髪を揺らす。
北沢志保
その後ろ姿に古い知り合いの影がよぎり、すぐに打ち消す。
北沢志保
こんな場所に居るはずがない。居たところで話すべきことなど、何もない。
北沢志保
知らずに歩調が早まっていた。盗み見た横顔は別人で、訳もなく安堵する。
北沢志保
空を仰ぎ見た。厳密には、上空へと目を逸らした。
北沢志保
傘の先から覗く空に月はなく、星もない。
北沢志保
憂さ晴らしにペンキをぶちまけたような灰色が広がっているだけだ。
北沢志保
ああ、と考える。とうに終わったことなのだな、と。
北沢志保
私は傘をそっと閉じ、駅までの道のりを急いだ。

(台詞数: 18)