北沢志保
撮影、見てたんですね。
北沢志保
忙しいなら他の人の様子を見に行けばいいのに。
北沢志保
いえ、まあ、感謝はしています。
北沢志保
………………。
北沢志保
台本は目を通していますよね。
北沢志保
プロデューサーさんはこの脚本、どう思います?
北沢志保
シナリオはあって無いようなもの。
北沢志保
余命幾ばくも無い少女が意識を失うまでの数日間。たったそれだけ。
北沢志保
それ故に分からないんです。どう演じたら良いのか。
北沢志保
この物語は何を描こうとしているのか。
北沢志保
病室を訪れた牧師を追い返すシーン、ありましたよね。
北沢志保
「神は皆を平等に愛する」
北沢志保
「富める者も貧しい者も、罪を背負った者さえも」
北沢志保
それを聞いて彼女が怒った理由、何だと思います?
北沢志保
……不平等な命。口先だけの愛に。
北沢志保
なるほど、しかしそれだけでしょうか。
北沢志保
私はもっと根本的な所を見落としてる気がしてならないんです。
北沢志保
例えば「何故愛されなければならないのか」とか。
北沢志保
私が救われて喜ぶのは、本質的には私だけです。
北沢志保
なら、私自身が救いを望んでいないとしたら……そこに神は必要でしょうか?
北沢志保
……もうすぐ次のシーンの収録が始まります。
北沢志保
効かなくなったモルヒネに最期を悟り、花を摘みに行く彼女。
北沢志保
看護師の目を盗み、衰えた自分の足を意識しながら、一歩ずつ。
北沢志保
射し込む西日が眩しくて、細めた目に映る世界はとてもちっぽけで。
北沢志保
……そして彼女自身も入るであろう墓を訪れ、花を手向けます。
北沢志保
ねえ、プロデューサーさん。
北沢志保
そうまでして慰めを得る理由とは何でしょう。
北沢志保
そもそも彼女は救いを求めているのでしょうか。
北沢志保
………………。
北沢志保
いえ、やっぱり結構です。
北沢志保
こればかりは自力で……私と、彼女の問題ですから。
北沢志保
……恐らくリテイクが多くなります。すみません。
北沢志保
ではそろそろ、行きますね。
(台詞数: 33)