深黒の黒騎士様
BGM
Liar's good bye
脚本家
親衛隊
投稿日時
2015-08-11 19:57:19

脚本家コメント
長いです。
前作 眩惑情念
http://m.ip.bn765.com/app/index.php/drama_theater/info/uid/1300000000000031424/seq/385

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北沢志保
特別なんていらない。
北沢志保
ただ、普通が欲しかった。
北沢志保
人混みに紛れた、その他大勢で良かったのに――。
北沢志保
神様は私を特別に選んだ。
北沢志保
持っていて当たり前の幸せ――家族を、無情にも私から引き離したのだ。
北沢志保
辛かった。苦しかった。現実を直視出来なくなる程に。
北沢志保
生きてさえいれば必ず報われる時が来る。そんな希望的観測に縋ったりもした。
北沢志保
そうでもしなければ壊れてしまうから。
北沢志保
親戚の大人からは無愛想だの笑わない子だのと、散々言われた。
北沢志保
周囲の視線は私だけに冷たく、友達と呼べる子すら皆無だった。
北沢志保
しかし習慣とは恐ろしいもので、そんな劣悪な環境にも徐々に順応していく。
北沢志保
それも偏に、そして密かに、心の拠り所があったからだ。
北沢志保
弟だ。
北沢志保
神様の力を以てしても、私たちの縁を引き離すことは叶わなかったようだ。
北沢志保
彼はいつでも傍に居てくれて、唯一の生きる糧だった。
北沢志保
この子だけは絶対に護ってみせると、心に決意の旗を立てたりもした。
北沢志保
――が、現実はやはり非情だった。
北沢志保
遂に神様は、私からその唯一すらも取り上げた。
北沢志保
私は独りになった。
北沢志保
――――――
北沢志保
何故、此処に在るのだろう。
北沢志保
何故、此処に居るのだろう。
北沢志保
笑っていたいのに。
北沢志保
悲しみたくないのに。
北沢志保
私は、苦しむ為に生まれてきたんじゃないのに。
北沢志保
なのに――どうして、意地悪をするの?
北沢志保
深黒の森が慟哭に包まれていく。まるで影を嘲笑うかのように風が葉を攫って音を立てる。
北沢志保
その様子を私はじっと見ていた。
北沢志保
これは在りし日の夢。葛藤の記憶だと知っているから。
北沢志保
知っているからこそ――脱却に失敗して膝を抱えた影に、私はぽつぽつと語り始める。
北沢志保
「……ねえ私。色々あったけれど、私は全てを抱えて生きる選択をした」
北沢志保
「あれほど悲観した人生だけど……今では結構楽しいと思えるようにもなった」
北沢志保
「だから見失わないで。希望の光は、いつだって手を差し出しているから」
北沢志保
「それでね、ふふ」
北沢志保
「この後、『騎士様』がやって来て、私を不思議な場所につれて行ってくれるの」
北沢志保
「その場所が、私に新しい未来を与えてくれるわ」
北沢志保
言葉に呼応したかのように「にゃあ」とひとつ、後ろから聞こえる猫の声。
北沢志保
「『ネコさん……?』」
北沢志保
重なる。
北沢志保
歩み出す影と、歩み寄る私。
北沢志保
駆け出す黒猫と、駆け寄る黒猫。
北沢志保
互いの姿が相反していく。
北沢志保
「今度は、逃げちゃダメだよ」
北沢志保
そっと黒猫を抱き上げて、私は頬を寄せる。
北沢志保
「おかえり……私の騎士様……」
北沢志保
あの日と全く変わらない、宝石のようにきらきらと輝く金色の双眸。
北沢志保
やがて心地良い気怠さがやって来て、意識をゆっくりと沈ませていく。
北沢志保
海のような優しさに体を委ねて――お別れの言葉。
北沢志保
しばらくお休み、ね。
北沢志保
夢の魔物に安らぎを。

(台詞数: 50)