北沢志保
列車が駅に着く頃に降り始めた雨は
北沢志保
梅雨入りの気配を漂わせ
北沢志保
灰色の雲は、切れ目なく天を覆う。
北沢志保
駅の購買局で買った傘は、長く倉庫の奥で眠っていた様な年代物で
北沢志保
歩みに合わせて揺れる度にキイキイと悲鳴を上げる。
北沢志保
官舎に辿り着く頃には、足下はグズグズに濡れていた。
北沢志保
早く風呂に浸かって温まろうと、カンカンと音を鳴らしながら階段を登ると
北沢志保
通路に積み上げられた、段ボール箱の山。
北沢志保
………………。
北沢志保
そこは私の部屋だったと思ったのだが……。
北沢志保
………間違い無い。私の部屋の前に、悪戯か嫌がらせの様に積み上げられた荷物。
北沢志保
しかも何故か、部屋からピコピコと音が漏れてくる。
横山奈緒
「赤来い、赤来い、……よっしゃ、来たで!あとちょい……。」
横山奈緒
【やったなー、だいだげき、ふにゃー】
横山奈緒
「ぐあー!何してくれんねん、このかえる君は~!」
北沢志保
「……もしもーし」
横山奈緒
「ああ、お帰りー。悪いけどお茶なら自分で煎れてやー。今ちょっと手が放せへんのや」
横山奈緒
「このかえる畜生に、格付けちゅうもんを教えたらなあかんさかいな」
北沢志保
…………ぷち。
横山奈緒
「だあーー!何いきなりコンセント抜きよんねん!」
北沢志保
「……どうして奈緒さんが私の部屋に上がり込んでレトロゲームに興じているのか」
北沢志保
「良ければ理由をお聞かせ願えますかね」
横山奈緒
「そらアンタ、そもそもこのテレビとメガドラ、あんたの入隊祝いにあげたヤツやろ」
横山奈緒
「私が使ても、何の問題もあらへんやろ?」
北沢志保
「それを何故、私の部屋でやっているのか、問題あり過ぎなんですけど」
横山奈緒
「いややなー、今日からは二人の愛の巣なんやから、そないないけず言うたらあかんわ~♪」
北沢志保
成程そういう事でしたかと得心し、私は靴を脱いで部屋に上がると
北沢志保
濡れた足を拭きもせず、角に転がっていたダンベルを取り上げ
北沢志保
ぶん
横山奈緒
「どわぁぁぁぁ!」どんがっしゃーん
横山奈緒
「いきなりなんちゅうモン投げつけて来んねん!殺す気か!」
北沢志保
「チッ、外したか……!」
横山奈緒
「わーい、ホンマに殺す気やってんね♪」
横山奈緒
「人が優しくしとったら付け上がりよってこのガキ……」
横山奈緒
「久し振りにしばいたるわーーー!」
横山奈緒
【……………】
横山奈緒
【しばらくお待ちください♪】
(台詞数: 37)