Stratosphere:06
BGM
月のほとりで
脚本家
concentration
投稿日時
2015-05-09 01:17:56

脚本家コメント
Suzanne Vegaのアルバム「99.9°F」(微熱)1992年
より、
「Song of Sand」
こーゆーのをダラダラ書いて話が全く進まないのは、私の悪い癖。
……年内に完結出来るかな……。

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北沢志保
街の灯りは殆ど消えかけ、聴こえるのは夜行列車の警笛と、野犬の遠吠え。
北沢志保
月が正天に差し掛かる頃、姉の家に着いた。
北沢志保
廃業して二年の『二階堂精肉店』の看板や、閉め切ったままのシャッターの至る所に
北沢志保
『資本主義の犬の家族は立ち去れ』
北沢志保
『戦闘機が飛んで帰ってくるのに、街ひとつの十日分の糧食が失われるのを知らぬのか』
北沢志保
……………。
北沢志保
勿論これは歴とした犯罪であり、こんな事をした連中は、私の通報で既に檻の中だ。
北沢志保
落書きひとつで思想犯、十年は出てこられないだろう。
北沢志保
尤も、檻の中に居る間は食うに困らぬ訳で、それが連中の目論見であるかも知れないが。
北沢志保
窓の一つから漏れる青白い灯りに、影がゆらゆらと踊る。
北沢志保
勝手口には鍵が掛かっていない。
北沢志保
相変わらずの不用心。また注意してやらないと。
北沢志保
小さく声を掛けて、屋内へ上がり、微かに声の聴こえる居間へと向かう。
北沢志保
聴こえる声は、テレビの音。軽くノックし、ドアを開ける。
北沢志保
「姉さん、今晩わ。」
北沢志保
部屋の灯りは、無為に流れるテレビの画面と、
北沢志保
部屋の灯りは、無為に流れるテレビの画面と、窓から入る淡い月光。
北沢志保
テレビの明かりと月明かりに照らされ
北沢志保
暗い部屋に、ぼうっと浮かぶ、
北沢志保
目を閉じ、肘掛け椅子に座る姉は、
北沢志保
眠っているかの様。
北沢志保
一寸、間を置いて、姉はゆっくりと瞼を上げて私に顔を向け、
二階堂千鶴
「……ごきげんよう、志保。元気でやっておりましたか?」
北沢志保
「はい、姉さんもお変わり有りませんか?」
二階堂千鶴
「お陰様で、のんびりと過ごさせて頂いてます。」
北沢志保
二年前に伴侶を亡くして以来、姉は一日の大半を、この椅子に座って過ごしている。
二階堂千鶴
「遠い所をお疲れでしょう。」
二階堂千鶴
「お向かいさんが人参を分けてくださったので、シチューを用意しておきましたのよ。」
北沢志保
「天然物の?」
二階堂千鶴
「まさか。塔からの配給ですわ。」
二階堂千鶴
「お向かいさん、一家揃って人参嫌いと来てますから。」
北沢志保
「だから毎回来る度に、台所に人参が転がってるのね……。」
北沢志保
姉はゆっくりと立ち上がり、晩餐の支度を始める。
北沢志保
手伝おうとする私をやんわりと退け、
北沢志保
静かな、無駄のない動きで、支度を整える。
北沢志保
湯気の立つ皿を受け取り、二人向かい合って座り、手を合わせて、頂く。
北沢志保
じきに梅雨入りという季節なのに、何故かひんやりとした空気の今宵、
北沢志保
姉のシチューの温かさが、とても心地良い。

(台詞数: 38)