北沢志保
デブリーフィングというのは、何故こうも退屈なのか。
北沢志保
緊張と高揚感に溢れるブリーフィングの空気との、この違いは何なのであろう。
北沢志保
その理由は明白だ。
豊川風花
「だから志保ちゃん、もうちょっと余裕を持った機動を……」
北沢志保
隊長の気の抜けた説教を延々と、右から左へと流し続けていれば、退屈に感じるのは当然だ。
豊川風花
「では北沢二尉、次は安全な機動を心がけて下さいね。」
北沢志保
戦闘機動で安全て……。
豊川風花
「それでは解散。報告書を上げて貰ったら、志保ちゃんは退勤ね。」
豊川風花
「連勤ばかりで本当、御免なさいね。」
豊川風花
「明日からの三日間は、ゆっくりして頂戴ね?」
北沢志保
「はあ、有難うございます。」
北沢志保
別に休暇など要らないのだが……。
北沢志保
退屈が肥大して、逆にストレスばかりが積もってゆく。
北沢志保
地上を這い回る私は、澱の様な物だ。
北沢志保
雑味、灰汁、老廃物、不純物。
北沢志保
不純物たる私は適当の極みの報告書をやっつけ、せめて邪魔にならぬ様、早々に消える事にする。
北沢志保
駐車場の端にぽつりと停められた車に乗り込む。
北沢志保
網膜認証で主人を認識した車は、ゴウン、と目覚めの咆哮を上げる。
北沢志保
民間人は所有を禁止された、燃焼動力の車。
北沢志保
勿論只のパイロットに過ぎない私が所有出来る訳が無いのだが、
北沢志保
少しばかり個人データを改竄させてもらったのだ。
北沢志保
轟音が、少しばかり私の鬱屈を紛らわせてくれる。
北沢志保
門衛の舌打ちも、エンジン音にかき消されて聴こえない。
北沢志保
基地を出てすぐ目に入るのは、日に日に増える、乱立した立て看板。
北沢志保
「基地反対」「戦闘機より保証を」「無用の塔を守るより国民の生活を守れ」
北沢志保
目を瞑っては運転出来ない。これらは心に留めておかねばならないという事だ。
北沢志保
しかし只の一兵卒である私は何も出来ぬので、心に留めて置くだけで、何もしないのであるが。
北沢志保
私の仕事は、ただ敵を墜とす事。
北沢志保
それ以外の私など、只の澱なのだから、
北沢志保
ただ静かに、地表に沈澱するだけだ。
(台詞数: 30)