矢吹可奈
「あの～、誰かいるんですか～?」
北沢志保
……!
北沢志保
…聞き慣れた声。
北沢志保
返事ができなかった。
矢吹可奈
はいりま～す。…
矢吹可奈
はいりま～す。……あ、志保ちゃん!
北沢志保
……っ!
矢吹可奈
どうしたの?こんな時間までお仕事だったの?
北沢志保
(……なにも言えない。)
北沢志保
(…完全に…)
北沢志保
(完全に混乱している。さまざまな感情が乱反射し、私の体に、脳が命令を出せないでいる。)
矢吹可奈
でも、よかった～!実はね、志保ちゃんに用があったんだ!
矢吹可奈
明日でもよかったんだけど、もしかしたらいるかな～って思って!
北沢志保
(やけに明るい声。今の私とは真逆の明るさだ。)
北沢志保
それなら…
北沢志保
それならメールでもなんでもくれればよかったのに。
北沢志保
(最大限、冷静を装った声。気持ちを乗せれば、きっと押し殺した何かが流れ出してしまう。)
矢吹可奈
えへ、それがね。泊まりで大阪までお仕事に行ったのに、携帯の充電器忘れちゃって…。
北沢志保
…大阪?
矢吹可奈
そうっ!美味しいものいっぱい食べられたよっ!…あっ、もちろんお仕事も頑張ったし!
北沢志保
…大阪。
北沢志保
(何か私は、とんでもない勘違いをしていたようだった。)
北沢志保
(それどころか、自分の勝手な憤りで、勝手に惨めになっていただけだった。)
矢吹可奈
はれっ?志保ちゃんに言ってなかったっけ?大阪のお仕事の話…。
北沢志保
…言って、ないわよ。
北沢志保
…言って、ないわよ。…ばか。
北沢志保
(その瞬間。)
矢吹可奈
!?…志保ちゃん、どうしたの?
北沢志保
(涙が出た。)
矢吹可奈
…な、何かヤなことあったかな～、なんでも可奈に、言ってみな～?
北沢志保
(…言えるわけがなかった。)
北沢志保
…なんでもない。
矢吹可奈
え～??ホント～?
北沢志保
……本当。本当だよ。
北沢志保
なんでもなかったし、なんにもなかった。
矢吹可奈
うーん…。そう言われるとなにも聞けないや…。
矢吹可奈
でもでもっ、なにかあったら私になんでも言ってね!絶対、チカラになるからね!
北沢志保
…ありがと。
矢吹可奈
……。
北沢志保
…なに?
矢吹可奈
……ぎゅーっ!!
北沢志保
ちょ、ちょっと!また…。
矢吹可奈
久しぶりに会えて、嬉しかったんだもーん!ただいま、志保ちゃん!
北沢志保
……おかえり。
北沢志保
…こ、今度お仕事で遠征するときは、充電器、忘れないようにしてね。
矢吹可奈
は～い。
北沢志保
…ねぇ、この紙袋なに?
矢吹可奈
あっ、そうだ!それで事務所寄ったんだよ!志保ちゃんに渡そうと思って!
矢吹可奈
はい。…ハッピー、ホワイトデー。
北沢志保
………かなのばか。
(台詞数: 50)