北沢志保
高度2万フィートを、速度350ノットで巡航。
北沢志保
眼下一面の雲を除いて、前後左右に遮るものは何一つ無く
北沢志保
空の果てに見えるのはまた、空と空の境界線
北沢志保
白と、青と、徐々に色は深みを増して
北沢志保
頭上に広がるのは、星まで届く漆黒の、成層圏。
北沢志保
「油圧、正常。燃料流量、正常。レーダーに反応無し、オールグリーン。」
北沢志保
「……どうやら誤報だったみたいね。」
矢吹可奈
『おかしいなー、信頼度評価Aだったんだけど……。』
北沢志保
スピーカー越しに聴こえるフライトオフィサーの声が、沈んでいる。
北沢志保
どうして彼女(?)は、こうも感情の起伏が激しいのか
北沢志保
「……よくある事だわ。」
北沢志保
「警報発令、命令が降りた。上がって、何もないのを確認して、帰投。それだけよ。」
矢吹可奈
『そ、そうだね、危ない目に遭わなかったんだから、かえって良かったのかな~♪』
北沢志保
「………その発言はどうなのかしら。 」
北沢志保
「じゃ、帰投しましょう。」
矢吹可奈
『ラジャー!………あ、左前方、視認距離に《塔》!』
北沢志保
一面の雲海を突き抜け、空を貫き、天の漆黒に吸い込まれる、一筋の輝線
北沢志保
それがそこに出現したのは、丁度私が生まれたのと同じ年
北沢志保
人類の科学と技術の結晶、全高3万フィート、宇宙まで届く軌道エレベーター
北沢志保
正式名称、ストラトスフィア(成層圏)
北沢志保
俗称、バビロンの塔。
矢吹可奈
『陽光が反射して、キラキラキラキラきれいだな~♪』
北沢志保
「……………30点。」
矢吹可奈
『うう、志保ちゃんヒドイ……。』
北沢志保
「酷いのは貴方の歌の方よ。大体どうして事ある毎に歌い出すのよ。」
矢吹可奈
『それは楽しいからだよ~♪』
北沢志保
「……………。」
北沢志保
突然、警報が鳴り出す。
矢吹可奈
『イエローアラート!レーダー反応、識別アンノウン!左舷8時、下方70度、距離8000!』
北沢志保
「早期警戒レーダーにも引っ掛からなかった!?」
矢吹可奈
『アクティブレーダー反応、識別レッド!18秒でエンゲージ!』
矢吹可奈
『後ろ、取られちゃうよ!!』
北沢志保
「……良かったわね、無駄足にならなくて。」
矢吹可奈
『ええ~、さっきと言ってる事が……、!?更に3機、右舷1時!挟み撃ちになっちゃう!』
北沢志保
……………ざわめく。
北沢志保
「クルーズ解除、増槽リリース、主翼前進展開、機底翼展開。」
矢吹可奈
『ラ、ラジャー!ドッグファイトモードに移行!』
北沢志保
機体を90度ロールして背面飛行、即座にダイブ。雲の海に突っ込む。
矢吹可奈
『敵機反転、本機を追って降下して来ます!』
北沢志保
垂直降下のまま再び機体をロール、フラップ全開、操縦桿を目一杯起こして
北沢志保
急制動で反転、上昇に移る。垂直方向にインメルマン・ターン。
矢吹可奈
『ちょ、志保ちゃん、そんな急制動したら機体分解する!志保ちゃんもバラバラになっちゃう!』
北沢志保
強烈な慣性に振り回され、ハーネスもシートも軋みを上げる。
北沢志保
一瞬遠のいた意識が、皮膚の下のざわめきに触れる。
北沢志保
血が、ざわめき、ノイズが走る。
矢吹可奈
『正面4機、相対速度5000!』
北沢志保
耳障りなノイズが、私に囁く
北沢志保
近付く者は、排除せよ
北沢志保
我は天空の王、此は我が褥
北沢志保
抗う者は、血祭りに上げろ。
(台詞数: 50)