ジュリア
へいいらっしゃい!
北沢志保
コロッケ、一つください。
ジュリア
はいよ、座って待ってな。
北沢志保
……お若いですよね。どうして、揚げ物屋を?
ジュリア
それがさ、あたしアイドルやってたんだよ。しかも結構な人気でさ。
ジュリア
でっかい会場借りて、そこがファンで埋まってて。
ジュリア
それを見たら、なんだか泣けてきちゃってね。ついにここまで来たんだーって。
ジュリア
そして涙を拭いて顔を上げたとき、光が見えた。とても強い光が。
ジュリア
……で、気付いたらじゃがいもの山とボロ屋台。
ジュリア
しばらく呆然として気付いたよ。
ジュリア
あたしが掴んだものは、全て幻だったんだって。
ジュリア
結局、何も変わっていやしなかったんだ。
北沢志保
まるで邯鄲の夢ですね。
ジュリア
困ったもんだよ。はいコロッケ。
北沢志保
ありがとうございます。
ジュリア
ま、この生活も案外いいもんだよ。
ジュリア
考える暇があったら手を動かす。それで売れ残ったら、メシを作る手間が省けるってもんだ。
北沢志保
揚げ物ばかりだと体に悪いですよ。
ジュリア
揚げ物屋に対して上等な説教だな。
ジュリア
さて、今日はこれで看板……って、別に急かしてる訳じゃないからね。ゆっくり食えよ。
北沢志保
…………。
北沢志保
帰りたく、ないんです。
ジュリア
……ったく。
ジュリア
仕方ないね。今日は臨時営業だよ。
ジュリア
さて、ここでクイズだ。夜はいつまで続くと思う?
北沢志保
……質問の意味が分からないです。
ジュリア
なるほど、50点だな。
ジュリア
分からない。それが答えさ。
ジュリア
明日も朝が来る保証なんてどこにもない。だから夜がいつ明けるかは分からないんだよ。
北沢志保
屁理屈です。
ジュリア
じゃあおさらい。高速道路はどこまで続くと思う?
北沢志保
……分かりません。
ジュリア
そう。よく分かってるじゃないか。
ジュリア
でも、それじゃ面白くないよな。そこであたしはこう考える――夜は終わらない。
北沢志保
分からない、ではないんですか?
ジュリア
ロックと接客業に「分かりません」という言葉はないよ。
ジュリア
いいじゃないか。ハイウェイはどこまでも続くし、夜は終わらない。
ジュリア
だから、気が済むまではここに居なよ。話し相手になってやる。
北沢志保
……実は私もなんです。アイドルの夢を見たこと。
北沢志保
沢山の仲間に囲まれながら歌って、それだけの事が嬉しくて――
北沢志保
目を覚ますと、私は一人でした。
ジュリア
…………。
北沢志保
自分でお金を稼いで、ものを買って、それが一人で生きることだとずっと勘違いしていました。
北沢志保
一人って、寂しいんですね。
ジュリア
ま、ここで会えたのも何かの縁さ。あんたは他人の気がしない。
ジュリア
これ、食えよ。残り物だけどさ。それとサプリメント。
北沢志保
栄養、気にしてたんですか?
ジュリア
揚げ物ばっかだと体に悪いんだぞ。
北沢志保
……コロッケ、暖かいです。
ジュリア
だろ?
(台詞数: 50)