北沢志保
「よし、皿洗いお終い」3人分の洗い物を片付けふぅと息をつく。母は今日も帰りが遅いらしい
北沢志保
「あぁ、もうプロデューサーさんまで寝ちゃって...起きて下さい夜営業行きますよ」
北沢志保
弟を寝かしつける役を買って出てくれるのはありがたいけどミイラ取りがミイラになっては仕方ない
北沢志保
寝息を立てている弟を起こさない様にソッとドアを閉じ鍵を掛け、駐車場へ向う階段を足早に降りた
北沢志保
5月も中頃だというのに夜になるとまだ少し肌寒い
北沢志保
5月も中頃だというのに夜になるとまだ少し肌寒いーこんな生活が始まったのは数週間前の事ー
北沢志保
「プロデューサーさん。夜営業の仕事、減らしてもらえないでしょうか?」
北沢志保
私の言葉がよっぽど意外だったのだろうか呆気に取られる顔にいつもの台詞を矢継ぎ早に貼り付ける
北沢志保
「あぁ別に休みたいという訳ではありません。確かに最近忙しくなってはいますが体調は万全です」
北沢志保
「実は...」言い淀む私に対し何時もの優しい顔に戻ったあの人を見るとこっちまで力が抜ける
北沢志保
「その、弟を迎えに行く時間が欲しいんです」忙しくなったとはいえ母が主婦に戻れる程では無く
北沢志保
お互いの仕事が重なりがちになり母に余計苦労をかけてしまっている状態で...と訳を話した
北沢志保
そういう事ならとプロデューサーは膝を叩いて立ち上がりその足で社長室へと入って行き
北沢志保
結果、私の移動手段は事務所の車になり。特別に夕方弟を迎えに行く事も許可が下りた
北沢志保
プロデューサーさんは何も言わなかったけど私の為に相当動いてくれたのと後で小鳥さんから聞いた
北沢志保
何か返したかったけど、また志保がトップアイドルになってくれるのが一番のお返しだとか何とか
北沢志保
頭を撫でながら煙に巻かれるのが目に見えてたので、黙ってその期待に応えれる様にしようと思った
北沢志保
ー「はい、到着~
北沢志保
ー「はい、到着~あ、こら!いきなりドアを開けたら危ないでしょ!」
北沢志保
幼稚園も年長組になり最近ますます活発に動き回る弟は正直怪我でもしないかとハラハラさせられる
北沢志保
意外な事に普段は人見知りするはずの弟がプロデューサーさんとは打ち解けた、波長が合うのかな?
北沢志保
「お母さん今日も帰りが遅いから、晩ご飯お姉ちゃんが作っちゃうね。今日はうん、肉じゃがだよ」
北沢志保
「あ、プロデューサーさんも良かったら食べて行って下さい。三人分も四人分も変わりませんから」
北沢志保
次の仕事まで時間がある時は出来るだけ私が夕飯の支度をするようにしている、母の為もあるけれど
北沢志保
このお人好しのプロデューサーは自分の事になると途端に雑になって固形栄養食とかで済ませるから
北沢志保
「とにかく野菜を食べさせないと」自然とそんな言葉を呟きながら今日もエプロンをつけ包丁を握る
北沢志保
当のお人好しさんはと言うと弟に絵本を読んでとせがまれてる、何だが親子というよりは兄弟みたい
北沢志保
題名は「森のけっこんしき」ネコさんとクマさんが皆に祝われながら結婚式を挙げる私の好きなお話
北沢志保
障子を挟んだ向こう側で朗読会が始まる、肉じゃがは後もう少し後10分も煮込んだら完成
北沢志保
「お味噌汁は出来てるしご飯も炊き上がる...」と、不意に障子越しの弟の言葉に差す指が固まる
北沢志保
「ぷろでゅーさーさんは、大きくなったらお姉ちゃんとけっこんするの?」無邪気な少しませた声
北沢志保
「なっ...!!」
北沢志保
「なっ...!!」何バカな事言ってるのと叱りたくなったけれど、今会話に入ったら
北沢志保
まるで私が聞き耳を立てていたみたいに思われてしまうかも知れない、ギュッとお玉を握り締めた
北沢志保
少し間が空いてプロデューサーのいつもの優しい声見なくても分かるきっと頭を撫でているんだろう
北沢志保
............
北沢志保
............
北沢志保
............
北沢志保
障子があって良かったと心底思った
北沢志保
障子があって良かったと心底思った。窓から吹き込む夜の風が何時もより少し気持ち良く感じたのは
北沢志保
きっと、私の頬が火照っていたからだろう
(台詞数: 41)