二階堂千鶴
「二階堂千鶴の」
二階堂千鶴
「突撃!隣のセレブディナー!」
二階堂千鶴
「お茶の間の皆さま、ごきげんよう。二階堂千鶴です」
二階堂千鶴
「様々なお宅にアポなしでお伺いし、そのお宅のセレブなディナーをご紹介するこの番組」
二階堂千鶴
「今回は、心強いゲストをお招きしております。どうぞ」
木下ひなた
「おばんでございます。木下ひなたです。セレブのことはよう分らんけど、よろしくお願いします」
二階堂千鶴
「安心なさい、わたくしが完璧に教えて差し上げますわ。おーっほっほっほ!」
馬場このみ
高笑いが住宅街に響き渡ると、千鶴ちゃんの持つ金色のおたまが夕日を受けてキラリと光る。
馬場このみ
心のセレブこそ真のセレブをモットーに家庭料理を褒め称えるこのコーナーは主婦層に人気がある。
馬場このみ
夕方の枠にあまり縁のないひなたちゃんにとって、間違いなく新鮮な経験になると踏んだが……
木下ひなた
「えへへ、応援ありがとねぇ~」
馬場このみ
集まってきたお母さんに手を振るひなたちゃんを見て、主婦層にも人気があったことを思い出した。
木下ひなた
「うわぁ、なまら美味しそうだべ~」
馬場このみ
千鶴ちゃんが目を付けた家に入り、コーナーが進行する。キッチンの大皿を二人で囲む。
二階堂千鶴
「確かにこのカレイの煮つけは素晴らしいですわね。セレブティッシュを差し上げますわ」
馬場このみ
照れるお母さんにひなたちゃんがティッシュを渡すと、ひなたちゃんが鍋の中の料理に気付く。
木下ひなた
「な、なしてこれがここにあんだい!?もしかして……」
二階堂千鶴
「……なるほど、北海道から4年前にこちらへ。東京は暑いでしょう。慣れまして?」
木下ひなた
「あんな……こんなお願いすんのはどうかなって思うんやけど、ちぃっとだけ食べてもいいかい?」
馬場このみ
お母さんはどうぞどうぞと小皿を出し、煮っ転がしを2人によそった。
木下ひなた
「わぁ~、懐かしい味だべさ。ばあちゃんが作ったのとそっくりだよぉ」
二階堂千鶴
「もしや、同じ北海道でもひなたの故郷の近くの御出身では?……まぁ、やはり」
木下ひなた
「言葉が東京の言葉だったから全然気づかなかったよぉ。ちょっこし悔しいべさ」
馬場このみ
ひなたちゃんの苦笑いでダイニングがよりほんわかした空気となる。
二階堂千鶴
「コホン。それでは今日はカレイの煮つけと、この煮っ転がしをセレブディナー認定いたしますわ」
二階堂千鶴
「お時間になりました。また来週お会いしましょう。お相手は、二階堂千鶴と」
木下ひなた
「木下ひなたでした~」
馬場このみ
ディレクターが手を上げると、2人ともホッと息をつき、笑顔を見せた。
馬場このみ
「お疲れさま。ひなたちゃん、どうだった?慣れない番組だったけど……」
木下ひなた
「なんもなんも。スタッフの人もおうちの方もみいんな優しかったから問題なかったべさ」
二階堂千鶴
「ええ、隣にいたわたくしから見てもバッチリでしたわ」
二階堂千鶴
「特に、煮っ転がしの場面はひなたでしか撮れない映像でしたでしょう」
木下ひなた
「そっだらこと……照れるべさ。たまたまあたしの生まれと近かったから」
二階堂千鶴
「いえ、ただ生まれが近いだけではここまで盛り上がりません」
二階堂千鶴
「ひなた、貴女がみせるその純真さと正直さがあの雰囲気を作ったのですから」
木下ひなた
「……
木下ひなた
「……そう言ってもらえると嬉しいねぇ。……あたしちょっくらスタッフさんとこ行ってくるべさ」
馬場このみ
「ひ、ひなた……ちゃん?」
二階堂千鶴
「……わ、わたくし、何かまずいことでも言いまして?」
馬場このみ
向こうでひなたちゃんがスタッフの皆さんにお礼をしている。
馬場このみ
その顔はいつもの純真で純朴で、裏表のない、人の心を温かにする顔で……。
馬場このみ
でも、さっきの顔は……。まるで不意に口の中に苦みが走ったような、そんな辛そうな……。
二階堂千鶴
「まぁ、先ほどのような顔を収録中に見せなかっただけ、良かったと思うべきでしょうか」
馬場このみ
「そうね。この前の老人ホームの現場でも同じこと言われてた……けど……?」
馬場このみ
ちょっと待って。それって逆に考えると……
馬場このみ
「千鶴ちゃん、ひなたちゃんって、番組でさっきみたいな褒め方をされることが多いのよね?」
二階堂千鶴
「そうですわね。番組側もそれを期待してオファーをするでしょうから。それが何か?」
馬場このみ
……なるほど。本当にそうだとすれば、これは亜利沙ちゃんが気付きづらいわけだ。
馬場このみ
「分かったかもしれない。……あくまでも、私の推測なんだけど。ひなたちゃん、もしかしたら」
馬場このみ
「……キャラを作っているんじゃないかしら?」
(台詞数: 50)