木下ひなた
あたしは追い求めてるんだ。
木下ひなた
あの日からずっと追い求めてる。
木下ひなた
ファインダー越しの私だけの世界…
木下ひなた
ううん…ファインダー越しにある私と君だけの世界を探してる。
木下ひなた
あの日々はもう帰ってこない。
木下ひなた
それはわかっている。
木下ひなた
けれど、あの日のあの瞬間だけはもう一度納め直したかったんだ。
木下ひなた
あの『ありがとう』に、あたしも「ありがとう」って返さなくちゃいけなかったんだ。
木下ひなた
そうすれば君は…
木下ひなた
あたしは間違ってたのかな…
木下ひなた
あの時も…
木下ひなた
あの時も…
木下ひなた
それに今だって…
木下ひなた
今までもっ…
木下ひなた
間違っているのかな…
木下ひなた
間違っているのだとしたら、そうキッパリと告げてほしいんだ。
木下ひなた
そうすれば諦めがつくんだ。
木下ひなた
だけど、それがない限りは、あたしは盲信して盲進しつづけるだろうね。
木下ひなた
あの日の幻のシャッターチャンスがまた来るのを健気に待って…
木下ひなた
あの日の幻影を追い求め続けるんだ。
木下ひなた
あの写真はもう…
木下ひなた
押入れの中にしまっている古いアルバムの中の一枚になってしまったけれど…
木下ひなた
それでも心のフレームの中には未だにあるんだからね。
木下ひなた
君との時間はそこで止まっている。
木下ひなた
あれから今日で丁度十年経つ。
木下ひなた
あたしは日々を重ね、数々のシャッターを切って、数え切れないほどの写真を重ねた。
木下ひなた
そして、気付けば著名な写真家になっていた。
木下ひなた
とある雑誌の紹介によると、心が虚しくなるような、なんとも味わい深い写真を撮るとのこと。
木下ひなた
特に意識をしているわけではないけれど、あの日々を求めて写真を撮るとなぜかそうなるんだ…
木下ひなた
そりゃあそうだよね、だって君が欠けている…ただの風景なんだからさ…
木下ひなた
あたしがこんな空虚な写真家になって今日で十周年だ。
木下ひなた
その記念に写真を納めようと思って、十年前と同じ場所に自然と足を運んでいた。
木下ひなた
かつて、あたしと君が最初で最後に一緒の写真を撮った場所。
木下ひなた
記憶というものは実際にはあまり頼りのないもので、同じ場所のはずなのに…
木下ひなた
少し印象が違うようにも見える。
木下ひなた
変わってしまったのだとしたら寂しいねぇ…
木下ひなた
それとも暗にあたしが変わってしまったからってことなのかね…
木下ひなた
チクリッ…
木下ひなた
ああ、嫌だねぇ…また感傷的な気持ちになりそうだよ…
木下ひなた
あたしは少し俯いてから、深呼吸をして呼吸と気持ちを整える。
木下ひなた
それからあの日の瞬間を、いや、今日という瞬間を納めようとレンズを覗きこむ。
木下ひなた
ファインダー越しに広がるあたしだけの世界。
木下ひなた
けど…
木下ひなた
「どうしてっ…」
木下ひなた
口元と、肩と、レンズが震える…
木下ひなた
だって、そこには笑顔を浮かべる君が立っていたから…
木下ひなた
「あのね、聞いてほしいことがあるんだ」
木下ひなた
あの日みたいに、けれど、迷わずに君はそう切り出すんだ…
木下ひなた
そして、あたしの返事を待つ事なく、こう告げる…
木下ひなた
「あの日みたいに一緒に写真でも撮らないかい?」
(台詞数: 50)