木下ひなた
銀杏の落葉が一面に敷き詰められた並木道を
木下ひなた
色鮮やかな野菜と、おまけだと持たされた甘薯で膨れ上がった買い物袋を、両手にぶら下げて
木下ひなた
軽い足取りで、金色の絨毯の上を、帰路に就く。
木下ひなた
魚屋の脇の塀から覗く、百日紅の残った花の数を数え
木下ひなた
道端の秋桜に、目で挨拶。
木下ひなた
秋は寂しくて好きじゃない、という人も多いが
木下ひなた
私は、この季節が大好きだ。
木下ひなた
まあ、どの季節も好きなのだけれど
木下ひなた
紅葉に染まった山の風景、田畑に実った作物、落ち葉焚きのむせ返る薫り。
木下ひなた
蓙を敷いて、ばあちゃんと一緒に大根の日干し。
木下ひなた
ぴゅうと、冷たい風が吹き抜ける。
木下ひなた
……………。
木下ひなた
「田舎では、じきに雪が降り始めるかねぇ……」
木下ひなた
「もう大分、水も冷たかろうねぇ……」
木下ひなた
「朝晩冷えると、ばあちゃん腰が痛むって、よく言ってたっけねぇ……」
木下ひなた
風に揺られた落葉が、かさりと鳴る。
木下ひなた
『よう、ひなちゃんお帰り!』
木下ひなた
威勢の良い、御主人の出迎えの声が唐突に聞こえ、飛び上がりそうになった。
木下ひなた
「ただいまぁ。ほれ、八百屋のおじさん、こんなに沢山のお芋をおまけしてくれたよぉ」
木下ひなた
『何だって?あのケチオヤジがおまけしてくれた?雹でも降るんじゃねえのか?』
木下ひなた
『あははは、ひなちゃん可愛いから、誰だっておまけしたくなっちゃうんだよう』
木下ひなた
おかみさんがころころと、可愛らしく笑う。
木下ひなた
『ひなちゃん有難うねぇ。さ、荷物置いてきな』
木下ひなた
おかみさんに促されて、裏の母屋へと廻る。
木下ひなた
良く手入れされた躑躅の生垣をぐるっと廻って
木下ひなた
門柱代わりの金木犀をくぐると
木下ひなた
小さな花壇の秋海棠が、可愛らしいピンクの花を揺らせていた。
(台詞数: 27)