木下ひなた
ーー夏休みが終わり、放課後は少し涼しくなってきた気がする
木下ひなた
僕の周りの環境は、特に変わりなし
木下ひなた
進展もなく、ひなたとはただいつものように遊ぶだけだった
木下ひなた
もちろんそれだけでも十分なんだろうけど、人間とは欲深い生き物である
木下ひなた
その欲が、いつか己の身を滅ぼすのだ
木下ひなた
…なんてことが、部屋を整理した時に発掘された当時の日記に書いてあった(表紙は真っ黒)
木下ひなた
当時の僕は、少し痛いやつだった。夏フェスに興味を持ったのもバンドってかっこいいと…
木下ひなた
…と、横道にそれてしまった。別のページから、あの時の記憶を呼び起こそう
木下ひなた
新学期が始まって、いつも通りのルートをいつも通りひなたと帰る
木下ひなた
いつも通りではなかったのは、ひなたの様子だった
木下ひなた
ボーッとしてなにか考え事をしていたような、かと思うと急に立ち止まってためいきをついたり
木下ひなた
ボーッとしているのはいつも通りだけど、ためいきをついているのは珍しかった
木下ひなた
多分、木下家が夏休み中に行った東京旅行から帰ってきてから、ひなたは様子がおかしかった
木下ひなた
『最近、ためいき多いね』
木下ひなた
「……へ?」
木下ひなた
「あ、ああ、ごめんよ、なに?」
木下ひなた
『…本当に大丈夫?』
木下ひなた
「大丈夫、ボーッとしてんのはいつも通り」
木下ひなた
『いや、ためいきがさ、多いなって』
木下ひなた
「そうかね?」
木下ひなた
『なにかあった?』
木下ひなた
「……うーん」
木下ひなた
『あったんだ』
木下ひなた
『よかったら、相談にのるけど』
木下ひなた
「うん、だけども、これはどうなんかなぁ…」
木下ひなた
「あたしが決めんといけんことだしね」
木下ひなた
『……そっか、なら無理には聞かないけどさ』
木下ひなた
『なに、東京でカッコいい人に声でもかけられた?』
木下ひなた
「……かけられたかな」
木下ひなた
『え、マジで?』
木下ひなた
「うん」
木下ひなた
ーーそのことに、ほんの少しだけ、心がざわついた
木下ひなた
ひなたは流されやすいとはいえ、嫌なことは嫌とちゃんと言えるやつだ
木下ひなた
ましてや、東京のチャラチャラした奴らの誘いなんかには乗らないだろう
木下ひなた
まぁ、今のはただの想像だけれども
木下ひなた
とはいえ、そのことで悩んでいるんだったら、と考えると、心にモヤモヤしたものがかかった
木下ひなた
『声かけられたって、ナンパ?』
木下ひなた
「ナンパ…?」
木下ひなた
『えっと、なんだ? お茶しない?みたいな?』
木下ひなた
「そんなんじゃなかったけんど」
木下ひなた
『じゃあなに?』
木下ひなた
「…結局そうやって根掘り葉掘り聞こうとすんだから」
木下ひなた
『ねほ…なに?』
木下ひなた
「なんでもかんでもってこと」
木下ひなた
『ああ』
木下ひなた
「いいけどもね…」
木下ひなた
「で、まぁ、ね」
木下ひなた
「声かけられたっていうんは」
木下ひなた
「アイドル、やってみんかって」
木下ひなた
ーーまた、心がざわついた
(台詞数: 50)