木下ひなた
「ごめんくださぁい…!」
木下ひなた
ある、しんしんと雪が降る日のことでした。
木下ひなた
プロデューサーが仕事をしていると、扉の向こうから声が聞こえます。
木下ひなた
はい、なんでしょう。プロデューサーが扉を開けました。そこには、女の子が立っていました。
木下ひなた
一房の毛がピョコンとはねた、可愛らしい女の子でした。
木下ひなた
「あたし、木下ひなたっていうんだぁ」
木下ひなた
「寒いところから来たんだけど、少し休ませてくれんかねぇ?」
木下ひなた
田舎から来たらしく、灰色のビルと人の海に疲れてしまったようです。
木下ひなた
こんな所でよろしければどうぞ。プロデューサーは言いました。
木下ひなた
「わぁ…!とても優しい人だねぇ。ありがとねぇ。」
木下ひなた
ひなた、と名乗った少女は大喜びです。
木下ひなた
親御さんに連絡はしないの?プロデューサーは尋ねます。
木下ひなた
すると、ひなたは悲しそうに目を伏せました。
木下ひなた
もしかして訊いてはいけない話だったのか、とプロデューサーは思いました。
木下ひなた
一応寝泊まりする施設はあるから、好きなだけいたら良いよ?プロデューサーは言いました。
木下ひなた
「ほんとかい?その…迷惑じゃ無いかい?」
木下ひなた
君みたいな子を外にほっぽり出すわけにはいかないよ、とプロデューサーは笑います。
木下ひなた
「それじゃ、ちょっとだけお世話になるよぉ?」
木下ひなた
ひなたの笑顔を見ると、この選択は間違いで無い気がしました。
木下ひなた
…と、突然事務所の電話が鳴りました。慌てて電話に出ます。
木下ひなた
電話は所属アイドルが受けたオーディションからでした。ぜひ起用したいそうです。
木下ひなた
恥ずかしい話、このプロダクションはあまり知名度のある事務所ではありません。
木下ひなた
久しぶりの仕事に、プロデューサーは思わずガッツポーズです。
木下ひなた
「何か嬉しいことがあったみたいだねぇ、あたしも嬉しいよ♪」
木下ひなた
ひなたはにこっと笑いました。
木下ひなた
─────────。
木下ひなた
それからしばらく日にちがたちました。
木下ひなた
最初、事務所に知らない子がいる事にアイドルは驚きましたが、すぐに仲良くなりました。
木下ひなた
その頃から、事務所へのお仕事が少しずつ増えてきました。
木下ひなた
仕事が増えたことで、アイドルはレッスンをいっそう頑張ります。
木下ひなた
事務所全体に元気が満ち溢れてきた、そんなある日のことです。
木下ひなた
プロデューサーが出社すると、ひなたが床でぐったりと倒れていました。慌てて近寄ります。
木下ひなた
どうしたんだ、おい。体を揺さぶろうとすると、あまりの冷たさに思わず手を引いてしまいました。
木下ひなた
「プロデューサー…?」
木下ひなた
ひなたが小さな声で言います。その体を起こそうとしましたが、ひなたが拒否しました。
木下ひなた
「プロデューサー…、あたしの…話を…訊いてくれる…かい?」
木下ひなた
ひなたが、苦しそうに言います。プロデューサーは頷くと、ひなたの言葉を待ちます。
木下ひなた
「あたし…実は人間じゃ無いんだ…。雪ん子って知ってるかい?」
木下ひなた
「あたしが気に入った人に…幸福が訪れる…そんな妖怪なんだ。」
木下ひなた
そんな妖怪である故にその身を狙われ、逃げてきたこと。そこでかくまってもらったこと。
木下ひなた
…もう、体が持たないこと。
木下ひなた
話を聞いたプロデューサーは、何か助かる方法は無いか問いましたが、ひなたは首を横に振ります。
木下ひなた
「あのね…プロデューサー…。あたし…お願いがあるんだぁ…」
木下ひなた
「もしも…あたしが人間になれたなら、皆と…一緒にアイドルになりたいんだぁ」
木下ひなた
絶対に叶えてやる。約束だ。そう言って小指を差し出すと、ひなたは最後の力で小指を動かします。
木下ひなた
小指同士をつないだ瞬間。ひなたの体は、小さな雪の結晶となって消えてしましました…。
木下ひなた
それから数ヶ月後。事務所ではプロデューサーがお仕事をしていました。
木下ひなた
突然、ドアがノックされました。来客かと、プロデューサーは扉を開けます。
木下ひなた
扉の先にいたのは、目の前で消えていなくなってしまったひなたでした。ひなたはにこっと笑うと。
木下ひなた
「ただいま、プロデューサー」
(台詞数: 50)