矢吹可奈
「ふうっ、はあ…」
矢吹可奈
真っ白な息で、かじかむ手を温める。
矢吹可奈
「寒いですね…。雪も降ってきたし…」
矢吹可奈
隣を歩くプロデューサーさんに声を掛ける。
矢吹可奈
『そうだな』──そう言って、プロデューサーさんは襟元のマフラーを直す。
矢吹可奈
その姿に、思わずドキリとする。
矢吹可奈
私よりもずっと年上の、大人の男の人。
矢吹可奈
ただの憧れかもしれない。でも、もしかしたら…
矢吹可奈
…………。
矢吹可奈
『可奈…』───ふいに名前を呼ばれる。
矢吹可奈
「これって…」
矢吹可奈
それは、先程までプロデューサーさんが着けていた手袋。
矢吹可奈
『……あったかい』
矢吹可奈
かじかむ手を包む温もり。少し大きな手袋に感じる優しい温もり。
矢吹可奈
なんだか、心も温かくなる…そんな気がする。
矢吹可奈
「…あれっ」
矢吹可奈
思わず、口に出してしまった。
矢吹可奈
だって、気づいてしまったから…
矢吹可奈
ーーードクッドクッ…
矢吹可奈
心臓の鼓動の高鳴り。熱を帯びる頬。
矢吹可奈
全部が教えてくれる。
矢吹可奈
きっとこれは…
矢吹可奈
きっとこれは…恋
矢吹可奈
ーーーーーー
矢吹可奈
雪降る街。私の心に降り積もったこの想い。
矢吹可奈
今はまだ、伝えられない。
矢吹可奈
だって、私は…まだこどもだから。…プロデューサーさんから見たら…
矢吹可奈
それに、アイドルとしても未熟だもん。
矢吹可奈
でもいつかきっと…
矢吹可奈
『♪いつか、伝えられたらなぁ~』
矢吹可奈
「あっ、えっと、今のは…何でもなくて……」
矢吹可奈
つい、いつもの癖で歌にしてしまう。
矢吹可奈
プロデューサーさんがこちらを見ていた。
矢吹可奈
『何を伝えたいんだ?』───笑顔で訊いてくる。
矢吹可奈
「…なんでもありませんよ。……エヘヘッ」
矢吹可奈
やっぱり、今はまだ…
矢吹可奈
でも、せめて…
矢吹可奈
手袋をはめた手を、そっと口元に添える。
矢吹可奈
そして…
矢吹可奈
「────です…」
矢吹可奈
「ふふっ…♪」
矢吹可奈
プロデューサーさんに聞こえないよう、小さく呟いた一言。
矢吹可奈
今はこれが精一杯。
矢吹可奈
ーーーはらはらと舞い落ちてくる、白い結晶。
矢吹可奈
きっと、雪を見るたびに思い出す。
矢吹可奈
今日、初恋が芽生えたこと。
矢吹可奈
冬が運んでくれた、恋の始まりのこと。
矢吹可奈
「………うん」
矢吹可奈
「よーし、頑張るぞ!」
(台詞数: 49)