矢吹可奈
…今日は、雨か。土手にはいけないな。
矢吹可奈
…雨の日は、どうしてもあの時の事を思い出して辛くなる。
矢吹可奈
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矢吹可奈
天海先輩からの電話。
矢吹可奈
私は、諦めると言った。…そう嘘をついた。
矢吹可奈
自分のついた嘘、本当の気持ち、身体、一緒に練習を頑張ってきたメンバーの気持ち。
矢吹可奈
その全部がごちゃまぜになって、あの時、外は雨だったのに私は土手へ向かった。
矢吹可奈
…いつもそうしてたんだ。私はばかだから、頭と心がよくごちゃごちゃになる。
矢吹可奈
でも、土手で歌えば、全部すっきりした。…だから歌が好きだった。
矢吹可奈
…なのに、あの日は歌えなかった。自分の心と声が、まるで離ればなれになったみたいだった。
矢吹可奈
……
矢吹可奈
……春香ちゃんの、私を呼ぶ声。
矢吹可奈
最初はヘンな感じで、慣れたら嬉しくてパワーを貰えたその声。
矢吹可奈
…その日の声は、どんなだったか、覚えてない。…すぐに逃げたから。
矢吹可奈
…でも結局追い付かれて、私のどうしようもない「姿」を見られて。
矢吹可奈
わざわざ私なんかを迎えに来た765プロの皆や、バックダンサーのみんな。
矢吹可奈
…電話だけなんて、やっぱり最低だったよね。事務所に、ちゃんと謝りに行ったんだ。
矢吹可奈
…謝って許されることじゃないけど、…だって私はみんなみたいにキラキラしてないから。
矢吹可奈
事務所で、みんなの足をひっぱってしまったこと、練習に行かなかったことを必死に謝った。
矢吹可奈
…自分の本当の気持ちなんてどうでもよかった。
矢吹可奈
私が抜ければ、もう志保ちゃんやみんなの足をひっぱることはない。それがみんなのためになる。
矢吹可奈
…でも、あの時、志保ちゃんは青ざめた顔をしていた。
矢吹可奈
志保ちゃんがどんな気持ちだったのか、全然わからなかったけど…。
矢吹可奈
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矢吹可奈
私は一人メンバーを抜け、アリーナライブは開催された。
矢吹可奈
私も一応客側として招待されたけど、やっぱり行けなかった。
矢吹可奈
後で知ったけど、ライブではバックダンサー達はいまいちだったみたい。
矢吹可奈
…でも、それでも彼女達は輝いたステージに立った。
矢吹可奈
本当の失敗は、ステージに立てなかった私のほうだ。
矢吹可奈
夢見た「輝き」は、向こう側の世界の話になってしまった。
矢吹可奈
…あんなことがあったから、ダンススクールは止めてしまった。
矢吹可奈
でも、自分で歌の教科書をいくつか買ってみて、一人で勉強した。
矢吹可奈
みんなの中で、自分が歌、下手なんだって気付いたから。
矢吹可奈
私は歌が大好きだから、少しでもうまくなりたかった。
矢吹可奈
…なんて、本当はただの現実逃避。でもそのお陰で立ち直れたし、また土手で歌えるようになった。
矢吹可奈
…そういえば、志保ちゃんは765プロに入れたんだっけ。
矢吹可奈
やっぱりああいうストイックな子が、アイドルには向いてるのかな。
矢吹可奈
…志保ちゃんの最後に見た顔は、事務所で謝ったときの、あの青ざめた顔。
矢吹可奈
私なんかが偉そうに言うことじゃないし、「やめたくせに」って怖い顔で怒りそうだけど…。
矢吹可奈
アリーナのこともあるし、ちょっと心配だな。…もっと志保ちゃんと仲良くできてたらよかったな。
矢吹可奈
…あ、お母さんが読んでる。
矢吹可奈
…手紙?
(台詞数: 42)