矢吹可奈
『気が付くと、きつねは夢から覚めたかのように、ぼんやりと座っていました。』
矢吹可奈
『胸の中には、まだ女の子のぬくもりが残っています。』
矢吹可奈
『ほっぺにふれた、あまいにおいも残っていました。』
矢吹可奈
『ヒュルルーッ』
矢吹可奈
『ヒュルルーッ。突然、冷たい風がふきました。』
矢吹可奈
『きつねは、急いで明かりのついていない電話ボックスに入りました。』
矢吹可奈
あら……。
矢吹可奈
『すると今まで消えていた電話ボックスの明かりが、ふるえながらゆっくりとともり始めたのです』
矢吹可奈
『きつねは、ふと暖かい気持ちに包まれました。』
矢吹可奈
『誰かに抱かれているような、優しい気持ちになったのです。』
矢吹可奈
よかったわ、あの子がお母さんに会えるようになって……。
矢吹可奈
私も、あの子のお蔭で、坊やを思い出すことができたもの。
矢吹可奈
『きつねは、そっと受話器を外しました。』
矢吹可奈
『こんなに星に手が届きそうな夜ですから、もしかしたら、坊やに声が伝わるかもしれません。』
矢吹可奈
もしもし、坊や……。
矢吹可奈
母さん、魔法が使えたのよ。ほんとよ!
矢吹可奈
『電話の向こうは、しいんと静かでした。誰の声も聞こえません。』
矢吹可奈
『でも、きつねは少しずつ元気がわいてくるような気がしました。』
矢吹可奈
そうよ、坊やは私の胸の中に。 いつまでも一緒にいるんですもの。
矢吹可奈
もう、
矢吹可奈
もう、大丈夫よ!
矢吹可奈
ずっとずっと、大好きよ。坊や!
矢吹可奈
『きつねは気が付きませんでした。』
矢吹可奈
『電話ボックスが、きつねのために最後の力で明かりをともしたのを。』
矢吹可奈
『消えてしまいそうな きつねの心に、そっと灯をともしたのです。』
矢吹可奈
『電話ボックスの明かりの下に、幸せそうな きつねの笑顔がぽっかり浮かんでいました。』
矢吹可奈
『おしまい。』
(台詞数: 27)