矢吹可奈
『山のふもとに、古い電話ボックスがありました。』
矢吹可奈
『電話ボックスは日暮れになると、ぽっと明かりがともります。』
矢吹可奈
『人通りのない道の、ぽつんとした小さな明かりは、いつもお客様を待っているようでした。』
矢吹可奈
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矢吹可奈
『この山奥に、母さんぎつねと子ぎつねが住んでいました。』
矢吹可奈
『父さんぎつねは、子ぎつねが生まれるとすぐに病気で亡くなってしまいました。』
矢吹可奈
『けれども、母さんぎつねは寂しいとは思いませんでした。』
矢吹可奈
『子ぎつねは日に日に大きくなるし、みるみる可愛くなっていくのですから。』
矢吹可奈
子ぎつね「母さん、見ててね。」
矢吹可奈
『今日も子ぎつねは、母さんの首に ぷらーんとぶら下がったかと思うと、』
矢吹可奈
『ひょいと背中に乗って、しゅーっとくるりん一回転。』
矢吹可奈
子ぎつね「わぁい、できた!うれしいな♪」
矢吹可奈
まぁすごい!母さんも嬉しいよ!
矢吹可奈
子ぎつね「えっ?母さんも?」
矢吹可奈
そうよ。坊やが嬉しいと、母さんも嬉しいの。
矢吹可奈
子ぎつね「じゃあ、私が魔法を使ったら、もっとうれしい?きつねは魔法を使えるんでしょ?」
矢吹可奈
ふふふっ、どうかしらね。
矢吹可奈
だって母さん、どんなおまじないしても化けられないもの。
矢吹可奈
子ぎつね「そうなの?できないの?なーんだ、がっかり…。」
矢吹可奈
それじゃ、そろそろおやすみしないとね。母さんが子守唄をうたってあげましょう。
矢吹可奈
子ぎつね「いいよ。母さんが歌うと、うるさくて眠れなくなっちゃうし。」
矢吹可奈
はぅ…。娘とはいえ、直球で言われると傷つくなぁ……。
矢吹可奈
『…………やがて、ひんやりとした空気が漂う季節になると、』
矢吹可奈
『子ぎつねの様子が変わりました。なんだか、いつもの元気がないのです。』
矢吹可奈
どうしたの、坊や。お腹が空いたの?それとも、どこか痛いの?
矢吹可奈
子ぎつね「ううん、ただ寒いだけだよ……。」
矢吹可奈
『母さんぎつねは、昼も夜も震える子ぎつねを抱いて暖めました。』
矢吹可奈
『けれど、ある朝、子ぎつねは小さい身体をもっと小さくして…、』
矢吹可奈
『冷たくなっていました。』
矢吹可奈
坊や、お願い。目を開けて……。坊や!坊や!!
矢吹可奈
『母さんぎつねがいくら呼んでも、子ぎつねは もう返事をしませんでした…。』
矢吹可奈
『その2に続く』
(台詞数: 32)