ジュリア
…よく来たね。五世紀ぶりだよ、ここに人間が来たのは
矢吹可奈
…あなたたちは…?
真壁瑞希
見張りです。この先、幽明境に人が誤って踏み込むことがないよう、悠久に佇む機械のようなもの…
ジュリア
どうして態々こんな処まで来たのかは分かんないけど、消えたくなきゃ、此処までにしときな
ジュリア
この先にある幽明境は、生と死の境界線。森羅万象全てに通じる一本道
ジュリア
人の身で踏み込むところじゃないよ。世間話には付き合ってやるから、この先のことは諦めてくれ
矢吹可奈
…いえ、その話を聞いてますます諦めるわけにはいかなくなりました
矢吹可奈
お願いします。私を、この先へ行かせてください
真壁瑞希
なりません。あなたの目的は存じませんが、この先に行って成し遂げられることなどありせん
真壁瑞希
この先は、物質はもちろん、クオリアやイデオロギーさえもが形をなさぬ、真の混沌
真壁瑞希
この世はあの世になり、あの世は小瓶になり、小瓶は砂漠になる世界
矢吹可奈
そうです。それが、私がいかなきゃいけない世界なんです!
ジュリア
…世界とすら呼べない場所だよ?何ができるんだよ、そんなところで
矢吹可奈
それは…
矢吹可奈
…歌いたいんです、私は
矢吹可奈
この世界にいる全ての人に…私の歌を届けたいんです!
真壁瑞希
…確かに、森羅万象そのものである幽明境であれば、歌を遍くこの世に響かせることも可能でしょう
矢吹可奈
なら!私を、先へ行かせてください!もう…時間がないんです!
ジュリア
何があんたをそこまで駆り立てるんだ?歌なんて、所詮はただの空気の振動だ。その先に何がある?
矢吹可奈
あなたの言う通り…私の歌は、ただの歌です。その先には何もありません。でも、
矢吹可奈
その前には、想いがあります。私の想い、そして、聴く人の想いが…!
矢吹可奈
…地上は、もうダメかもしれません。人間は、科学という麻薬で自家中毒を起こし…
矢吹可奈
その末期症状で、世界は悲劇の沼となりました。正気を保っている人は、もう後わずかです
ジュリア
聞き及んでいる。この世の支配者であった人間が哀れなものだ。あたしは、深く同情する
ジュリア
だからこそ、あんたをこの先には行かせない。その身は、最後までこの世のものであるべきだ
ジュリア
なればこそ、人としての生を全うしたことになる。近く人がこの世から消え去ったとしても…
ジュリア
あんたはこの狭い宇宙に、転生することができるだろう。もう一度、意志を持った存在として
ジュリア
身を投げるな。歌なんかで変わる世界じゃない。崇高な自己犠牲は、また今度にしときな
矢吹可奈
…自己犠牲なんかじゃありません。これは、私のエゴです。私は…
矢吹可奈
…歌を、聞いてもらいたいんです
矢吹可奈
ねえ、もしも…この世界が私の歌で救われたなら…それは私にとって
矢吹可奈
最高の幸せになると思いませんか!?
真壁瑞希
少女よ。幸せとは、幻想にも満たぬ塵です。生という確固たる現象に比べあまりにも矮小なのです
真壁瑞希
あなたが掴むべきは、幸せではなく、人としての生なのです
矢吹可奈
さっきから、人として…って何度も言いますけど
矢吹可奈
じゃあ、人って、何ですか?
矢吹可奈
脳死してしまった人は人ですか?殺人を犯した人は、希望を持たない人は…人じゃなくなりますか?
矢吹可奈
…それでも、私たちは人間なんです。この世で人間となってしまったら…不可逆に人間なんです
矢吹可奈
…だから、私の行いは全て、人の為すものです。たとえ魂が塵芥に砕けようとも…
矢吹可奈
私は、歌を、届けます!絶望したこの世界に…、私の歌を響かせます!
ジュリア
…その末に地獄を超えた苦しみが来ようとも
真壁瑞希
…真の闇に永久に囚われようとも、後悔しませんか?
矢吹可奈
しません!歌を届けられるのなら、それが私の全てです!
真壁瑞希
人の少女よ。あなたはその行いの結果を見届けることも敵いません…しかし
ジュリア
あたしたちが見届けてやる。あんたが為すであろうその奇跡を、確りと見届けよう
矢吹可奈
えへへ…、ありがとうございます!
矢吹可奈
良い結果だったら教えてくださいね?楽しみに待ってますから
ジュリア
…ああ、分かった。必ず、報告してやる
矢吹可奈
それじゃあ…、行ってきます!
真壁瑞希
…幸あれ
(台詞数: 50)