真壁瑞希
横山さんは、最後の日にしたい事はありますか?
横山奈緒
ないな。瑞希は?
真壁瑞希
私も特に。
横山奈緒
悔いを残すような生活してへんやろ。お互いに。
真壁瑞希
探求、研究、そして解明。常にやりたいことだけをやって生きていますからね。
真壁瑞希
最後の日も、変わらず塔の上でパソコンと向き合っているのでしょう。
横山奈緒
地上の奴らは終末を知る由もなし。神さんの警告も無駄に終わったなぁ。
真壁瑞希
おや、横山さんは有神論者でしたか。
横山奈緒
そら八百万の神さんが御座す国の住民やで。信じとらんと初詣にも行けへんやん。
横山奈緒
八百万言うたら凄いでぇ。私が持っとるこの紅茶にすら神さんが宿っとるのかもしれんなぁ。
真壁瑞希
紅茶の神様ですか。日本の方でしょうか?
横山奈緒
彼の千利休は黒を気に入っとったらしいわ。何故か? 湯呑みの中身がバレんようにやな……。
真壁瑞希
紅茶のイメージに全くそぐわない方をチョイスしましたね。
真壁瑞希
それと、凝り過ぎた嘘は洒落になりません。
横山奈緒
つまらんなぁ。神さんはロマンの塊やで? 科学者がロマンを捨てたらロボットになってまう。
真壁瑞希
いえ、私とて無神論者というわけではないのです。
真壁瑞希
ですが今回、全国各地で発生している謎の不協和音。あれが神さまの仕業ではないと考えています。
横山奈緒
アポカリティックサウンド……終末を告げる音。天使のラッパ演奏は幼稚園児並みやったな。
横山奈緒
1回だろうが7回だろうが感性が削がれた現代人には、なーんも伝わらん。雑音は雑音やねん。
真壁瑞希
……今になって思うのです。あの音は警告などではなく、悲鳴ではなかったのか、と。
横山奈緒
悲鳴?
真壁瑞希
横山さんは……仮に空が鳴くとしたら、どなたが鳴らしていると考えますか?
横山奈緒
空やろ。空っちゅー生き物や。
真壁瑞希
なる、ほど……。意外ですね。
横山奈緒
何が。
真壁瑞希
いえ、私と似たような感性をお持ちのようでしたので。
真壁瑞希
空は生き物。実は私もほぼ同じ考えなのです。
真壁瑞希
空も含め、海や大地なども、全て同じ生き物の部位だと思っています。
横山奈緒
つまり……今、悲鳴上げてるんは惑星そのものってか。
真壁瑞希
はい。
横山奈緒
根拠は?
真壁瑞希
ありません。
横山奈緒
ぶっ。
真壁瑞希
紅茶を盛大に吹き出しましたね。今のお顔は中々面白かったです。
横山奈緒
わ、笑かそうとしたわけやないわ!
横山奈緒
瑞希が珍しく熱弁しとったさかい、さっきの答えは予想外だっただけや。
真壁瑞希
先程、横山さんも仰っていたではないですか。科学者がロマンを捨てればロボットになる、と。
真壁瑞希
私はまだ、人で在りたいのです。
横山奈緒
……。
横山奈緒
もしかしたら、私らはもう人やないのかもしれんな。
真壁瑞希
何故そう思うのです?
横山奈緒
瑞希は、最期が恐いか?
真壁瑞希
まったく。
横山奈緒
……私もや。
真壁瑞希
だから、ですか?
横山奈緒
……。
真壁瑞希
ならば回避を願いましょう。願うのは人の特権です。
真壁瑞希
安心してください。何せ、この国には八百万もの神さまが住んでいるのです。
真壁瑞希
そんな事より……
真壁瑞希
紅茶のおかわり、いかがですか?
(台詞数: 50)