横山奈緒
「……終わってしもたな。……はは、呆気ないモンやね。」
横山奈緒
―帰り道、奈緒のほうから話を切り出してくれた。
横山奈緒
―奈緒のおしゃべり好きは稀には気に障るが、今は有り難い。今のように空気が重い時には。
横山奈緒
―俺と奈緒、二人だけで参列した『葬式』。事務所メンバーはおろか、業界人すら居なかった式。
横山奈緒
―俺は、もはや奈緒の身内みたいなものだから一緒だ。大泣きするだろう奈緒を独りにできないし。
横山奈緒
「……一仕事終わったら、お腹空いたわ~。適当なお店に入らへん、プロデューサーさん?」
横山奈緒
―それは俺も賛成だ。このまま家まで帰るのは、さすがに辛い。奈緒が涙の跡を残したままでは。
横山奈緒
……俺も、人目につかない空間がほしい。
横山奈緒
……
横山奈緒
「お待たせ~。いやー、こういうオシャレなお店は、お手洗いまでオシャレやわ。落ち着けへん。」
横山奈緒
―カフェに来て、開口一番トイレを話題にするのか……
横山奈緒
―どんな話題でも笑いをとれる、相手を引き込める。だから奈緒は、鉄板のシモの話題は選ばない。
横山奈緒
―でも今、そんな話題にしたのは……いつも通りの楽しい自分やで、とアピールしたい懸命の抵抗。
横山奈緒
―気を抜けば、堰を切ったように涙が溢れるのが、分かっているから。
横山奈緒
「……長い付き合いやったのに。お別れするときはアッちゅう間やもんね。嫌になるわ。」
横山奈緒
「……こんな事になるなら、もっと優しくしたかったし、色んなとこ連れていってあげたかった。」
横山奈緒
―『奈緒は十分優しかったし、アイツも感謝してると思うぞ。他の誰より恵まれてた筈だよ。』
横山奈緒
―決壊を阻止するためのフォロー。……洪水の前に、男一人両手を広げる位の意味しかないが。
横山奈緒
―グスグス言いながら、ポツポツと奈緒の口から言葉が零れてくる。
横山奈緒
「プロデューサーさん……『天国』って……あるんかな?……あの子は、天国に行けるんかな?」
横山奈緒
「『天国』があったとして……あの子みたいな子は、そこに入れてもらえるやろうか?」
横山奈緒
「……アオノリは、どこに行ってしまうんやろ?」
横山奈緒
……
横山奈緒
―十数年前、ひとつのムーブメントが家電業界・玩具業界に発生した。ロボットペットブーム。
横山奈緒
―新しいロボット犬の開発をコラボして進めるオファーが来た時、俺は奈緒に任せることにした。
横山奈緒
―理由のひとつは、関西弁で早口でまくし立てる奈緒の言葉に音声認識で挑みたい、先方の希望。
横山奈緒
―だがそれ以上に、寂しがりな奈緒こそ、家でも話せるロボットペットが合うと考えたからだ。
横山奈緒
―レッスン終わっても事務所にダラダラ残ったり、美奈子の店に行ったり。いつも誰かと居たがる。
横山奈緒
―別に、それ自体が悪いわけではない。ただ、いつもいつまでも他人に甘える気質なのはどうか。
横山奈緒
―相手の懐に飛び込めるのは奈緒の魅力のひとつだが、人間として成長するなら強さも必要だ。
横山奈緒
―ペットに依存しては元も子もない……が、『懐かれる』立場になれば、奈緒も変わるかも。
横山奈緒
―俺の裏の思いはさておき。このロボット犬の開発自体は、大成功に終わった。
横山奈緒
―音声認識からのレスポンスの良さ。ダンスなどその他の性能。そしてアイドルコラボの話題性。
横山奈緒
―かくて、多くの『飼い主』がこのロボット犬を求め、アオノリの『弟』達が巣立っていった。
横山奈緒
―奈緒についての俺のプロデュースも当たった。アオノリをパートナーに、動物番組に出演させた。
横山奈緒
―『それ、犬ちゃうやん!』「いやいや、アオノリは賢いワンコですよ~。」と、鉄板のネタ。
横山奈緒
―動物番組や企業訪問ロケ、ロボット犬メイカーのCMに出演。奈緒は芸能人として成功した。
横山奈緒
―……あの日が来るまでは。
横山奈緒
―ロボットペットブームは去り、新規発売終了後の数年後、メイカーのサポートも無くなった。
横山奈緒
―有志の民間サポートを受け、パーツ交換やメンテを繰り返しアオノリは『生きて』きたが……
横山奈緒
―先日、これ以上の『延命』は不可能、との回答が来たのだ。そして『遺体』は帰ってこない。
横山奈緒
―サポート契約の一貫で、パーツ取りのため、先方が引き取ると有るためだ。記憶媒体だけが戻る。
横山奈緒
―他の『犬』のための『ドナー』になる。今までアオノリが、他の犬に救ってもらったように。
横山奈緒
「……記憶の部品だけやもんな。アオノリ、軽くなってしもうたな……。」
横山奈緒
―そう。普通は飼い主との『繋り』しか帰ってこない。……だが、実は俺は無理を聞いてもらった。
横山奈緒
―『破損が酷く再利用不能なアオノリの部品。その回線などから、金を取り出してもらった。』
横山奈緒
―『それを溶かし混んだのが……この指輪だ。受け取ってもらえるか、奈緒……?』
横山奈緒
「……女の子が心を弱くしとるタイミングで、プロポーズするなんて。卑怯やないですか?」
横山奈緒
―『そうだな。良い奴は早く逝っちまって、悪い奴は残っちまったようだな。』
横山奈緒
「そんな仕込み無くても、私の答えは決まっとりますわ……これからも、よろしくお願いします!」
(台詞数: 50)