横山奈緒
「……塔?」
真壁瑞希
「はい、塔です」
横山奈緒
「えらい大層なもん建てるんやな。連中、今度は神さんにでも喧嘩売るつもりなんか?」
真壁瑞希
「ただの塔ではありませんよ。軌道エレベーター……そう、科学者の夢を建てるんです」
横山奈緒
「夢……なぁ」
真壁瑞希
「ワクワクしませんか?」
横山奈緒
「瑞希はするんか?」
真壁瑞希
「想像してください。こうした質素なランチタイムが一変して、星の海で行われるのですよ」
真壁瑞希
「ほら、このプチトマトがとある惑星に見えてきませんか?」
横山奈緒
「火星……かな?」
真壁瑞希
「いえ、トマト星です。トマト王子が惑星を治めています」
横山奈緒
「そら……さぞイケメンなんやろな」
真壁瑞希
「そうでしょうか。私は物語に出てくるタコのように真っ赤だと思いますが」
横山奈緒
「なあ瑞希……本気でアレが実現すると思うんか?」
真壁瑞希
「……正直、半々です」
真壁瑞希
「酸化、雷、重力場、電力、アースポート、燃料やそれに伴う公害etc.」
真壁瑞希
「これまでに上げられていた問題点は九割方、解決された筈です」
真壁瑞希
「ここまで来ると、我らが科学は無敵でしょうね」
横山奈緒
「地上では、やろ」
真壁瑞希
「ええ、建てるだけなら造作もないでしょうね」
真壁瑞希
「ですが先にも言った通り、解決した問題は未だ九割。残りは……」
横山奈緒
「宇宙は神さんの領域やで。子供ん頃そんな話を聞いたわ」
横山奈緒
「私は関わらん方がええと思うんやがな」
真壁瑞希
「仕方ありませんよ。いつの世でも宇宙は人類の憧れなんです」
真壁瑞希
「幾多の科学者が願っていた夢。それに今、手が届きつつあります」
真壁瑞希
「アレがいつか、どんな思想も宗教も取り払うと信じて止まない人もいますしね」
横山奈緒
「人が神さんになる言うんか」
真壁瑞希
「神様なんていませんよ。思想も宗教も勝手に創ったのは人間です」
横山奈緒
「……そか」
横山奈緒
何となく、触れてはいけない気がする。
横山奈緒
そう瑞希の表情から読み取り、私は話題を変える事にした。
横山奈緒
「ああ、そういやどうなん? 新入りの方は」
真壁瑞希
「案の定、優秀な方ばかりですよ」
横山奈緒
「あんま嬉しそうやないな」
真壁瑞希
「おや、ポーカーフェイスは得意なつもりでしたが……」
横山奈緒
「言葉を選ぶんがコツやで」
真壁瑞希
「善処しましょう」
横山奈緒
「しっかし優秀なのにあかんかったのか……ほんまようわからんなぁ、そっちの部署は」
真壁瑞希
「良くも悪くも頭が固いですね。表情が固い私が言う台詞ではないかもしれませんが」
真壁瑞希
「あ、でも素晴らしく見込みがある方もいますよ」
横山奈緒
「この前、一緒に食事した子やね」
横山奈緒
「なんや、やたら夢見がちで、ふつーな女の子やった気がするけど」
真壁瑞希
「彼女の着想は非常に面白いんですよ。論文も中々に刺激的で」
横山奈緒
「人は見かけによらないんやなぁ」
真壁瑞希
「それを言うなら横山さんもでしょう?」
横山奈緒
「どういう意味や?」
真壁瑞希
「おっと、トマト王子がアルマゲドンしてしまいました……」
横山奈緒
「……まあ、ええわ」
横山奈緒
「そや、その例の新人。あの子、名前なんて言うてたっけ?」
真壁瑞希
「七尾さん……七尾百合子さんですよ。横山さん」
(台詞数: 50)