横山奈緒
私たちの世界には、宇宙にまで伸びる塔がある。
横山奈緒
これは、宇宙で使用する物資を輸送するエレベーターの役割を担っているものであり、
横山奈緒
一昔前までのロケットの代わりとして、今では人類に不可欠なものとなっている。
横山奈緒
その活躍たるや、過去に類を見ない速さで私たちの知らなかった世界が解明され、
横山奈緒
やがて、枯渇している資源の問題、隕石衝突や氷河期到来の未来を見通しての移住問題等、
横山奈緒
それら全てに解決の糸口を与え、実現を可能なものとする程だった。
横山奈緒
この塔は、人類にとって希望の象徴であり、私たち科学者の魂の結晶。
横山奈緒
そう、私たち。
横山奈緒
「あれから、どれくらい経ったやろか」
横山奈緒
――――――
横山奈緒
「……もしもし」
真壁瑞希
「こんばんは。いきなりですが先日、政府から最後通告がありました」
真壁瑞希
「明日、私は塔と一つになります」
横山奈緒
「ふざけとる。人体をパーツに使うなんて狂っとるにも程があるで」
真壁瑞希
「決定が覆る事はないそうです。これは人類全ての総意だそうで」
横山奈緒
「そんなもんで割り切れる訳ないやろ。人の命はそんな軽くないんや」
真壁瑞希
「これは悲劇ではないんですよ。大きな未来への躍進……私はその先導者になれます」
真壁瑞希
「言わば英雄です。希望に満ち溢れているじゃないですか」
横山奈緒
「絶対間違うとる。犠牲があって悲劇でない?何言うとるんや」
横山奈緒
「それに、このプロジェクトは極秘裏に行われとる。あんたも知っとるやろ?」
横山奈緒
「英雄が現れる予定はないんや。今なら逃げる事も出来る。せやから……」
真壁瑞希
「そう言えば私、昔からあなたには負けっぱなしでしたね」
横山奈緒
「あ?」
真壁瑞希
「学生時代から勉強もスポーツも全部、あなたの方が上でしたよね」
横山奈緒
「何の話や。今、大事な話をして……」
真壁瑞希
「ですが今回、選ばれたのは私……いえ、私の頭脳です」
真壁瑞希
「選ばれたという事は優秀だったという証明。私の勝ち逃げ、独走ですね」
横山奈緒
「今はそんなんどうだってええやろ。私が話したいのは……」
真壁瑞希
「どうでもいい?よくないですよ。憧れだった横山さんにようやく勝てたんです」
真壁瑞希
「この電話も、私のくだらない報告などではなくただ一つ、」
真壁瑞希
「横山さん、大好きなあなたに褒めて貰いたいが為にしたんです」
横山奈緒
「……」
横山奈緒
「……阿呆」
横山奈緒
「ど阿呆……あんた、ほんまもんの阿呆や……」
横山奈緒
「せやけど……よう、頑張ったな瑞希」
真壁瑞希
「ありがとうございます。とても頑張りました」
真壁瑞希
「やったぞ瑞希。えへへ」
真壁瑞希
――――――
横山奈緒
あの日、彼女は笑った。
横山奈緒
涙声で笑っていた。
横山奈緒
けれど、それすら知らない人々は皆、手に入れた僥倖に愉悦するだけ。
横山奈緒
彼らの中には、彼女の影すら存在しない。
横山奈緒
当然や。知る術なんてないんやから、葬られた闇から彼女が浮かぶ事は二度とない。
横山奈緒
……
横山奈緒
「……せやけどな、こんなんで納得出来る訳ないやろ」
横山奈緒
「なぁ、こんな姿でも理解出来るやろ?あんたは今、英雄なんかやない」
横山奈緒
「残酷やな。犠牲の上に立たれて、笑われて、何が英雄や」
横山奈緒
「すまんな、瑞希」
横山奈緒
「あんたが居ない”こんなもん”、生かしとく道理なんて、私にはないんや」
横山奈緒
「壊したる。あんたの鎖も、こんな世界も、全部な」
(台詞数: 50)