ジュリア
「ジュリアか…」
二階堂千鶴
噛み締めるように、そう呟く彼女の心情を窺い知ることは出来ない。
二階堂千鶴
「あら、もしかして気に入らなかった?」
ジュリア
「ううん、むしろすっげえ気に入ったぜ!」
ジュリア
「ありがとな!!」
二階堂千鶴
優梨愛、もといジュリアは笑顔でお礼の言葉を述べる。
二階堂千鶴
「それで、もう行くの?」
ジュリア
「ああ、あたしは765Pに行く」
ジュリア
「この名前と一緒に夢の続きを見てくるんだ」
ジュリア
「千鶴は、夢は目を開いてみるものだって、教えてくれたよな」
ジュリア
「あの教えがなきゃ、いまのあたしはなかったと思う」
ジュリア
「だから、世話になったぜ…」
二階堂千鶴
そう言うと、ジュリアは部屋を去ろうと、扉の前にまで行く。
二階堂千鶴
応援する、見守ると決めた手前、決して止めることは出来ない。
二階堂千鶴
たったいま、旅立とうとするその背中を見つめる。
二階堂千鶴
しかしジュリアは扉の前にまでは行ったきり、そこで固まったまま動かない。
二階堂千鶴
その様子を見て、彼女には扉を一枚挟んで"迷い"があるのだと察することができた。
二階堂千鶴
色々な葛藤が、彼女の頭の中を巡りに巡っているのかしら。
二階堂千鶴
「ねぇ、ジュリア」
二階堂千鶴
「この扉の先へいったら、もう後戻りはできないと思っているの?」
二階堂千鶴
「優梨愛、それは大間違いよ」
二階堂千鶴
この先へ行く時、彼女は優梨愛の名をここへ捨てていくつもりね。
二階堂千鶴
でもね、そうじゃない、それだけはさせない。
二階堂千鶴
「ジュリアは優梨愛よ」
ジュリア
「え?」
二階堂千鶴
「つまり私が言いたいことは、あなたはあなたってことよ」
二階堂千鶴
「名前は変わるかもしれないけど、あなたは変わらないわ」
二階堂千鶴
「それと同じように、あなたは私の家族、それも変わらない」
二階堂千鶴
「あなたは私の大切な妹よ、それだけは忘れないで」
ジュリア
「ああ、忘れない」
ジュリア
「なんかさ、お陰で吹っ切れたよ。これで胸を張って行けそうだぜ」
二階堂千鶴
「そうね、寂しくなるわ」
二階堂千鶴
言葉通りの意味、これが私の本心だ。夢の様な日々、と言えば少し大げさだけど…
二階堂千鶴
商店街がかつて賑わっていたように、私の部屋は彼女が来て、とても賑やかだった。
ジュリア
「それじゃ…」
二階堂千鶴
ガチャッ…
二階堂千鶴
ドアノブを回す音が、乾いた部屋の中に響き渡る。
二階堂千鶴
ジュリアは扉を前へと押して、扉が八分くらい開いたところだ。
二階堂千鶴
「優梨愛、もし疲れたら、いつでもここに帰ってきていいのよ」
二階堂千鶴
「私はいつでもここにいる、だからいつでも気軽に立ち寄りなさい」
ジュリア
「ああ、そうするよ」
二階堂千鶴
「私、出来る事なら、ずっと傍で見守っていたかったわよ」
二階堂千鶴
「あなた、眩しかったのよ」
ジュリア
「千鶴…」
二階堂千鶴
「出来る事なら、同じドアをくぐれたらって思うわ」
二階堂千鶴
「でも、今はまだ、それも叶いそうにないようね」
二階堂千鶴
「だから、いってらっしゃい」
ジュリア
「ああ、行ってきます」
二階堂千鶴
彼女が去った部屋には、静寂が再び訪れた。
二階堂千鶴
ここは寂れた商店街だ。
(台詞数: 50)